第二部

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第二部

8年前のあの日、イライジャがイチモツのみになってしまったあと、ひとり大海原に取り残されたディランは、自力ではどうする事も出来ずに、ただただワンワンと泣いていました。 そこへやってきたのが水カピバラの「カピ丸」でした。カピ丸というのはディランがのちに付けたあだ名です。水カピバラは、姿カタチは陸にいるカピバラと変わりませんが、唯一ちがうのは全身の毛が淡いピンク色で覆われています。基本的には集団行動で海の中を泳いで生活していますが、集団ゆえの派閥やイジメや陰口が横行していて、カピ丸はそういう狭い世界の陰湿な雰囲気と、そこにいる自分がずっと嫌だったので、思い切って集団から抜け出すことにしました。 急に組織を抜け出したことで、根も歯もない悪口やウワサが集団の中を渦巻きましたが、すでに清らかな世界に飛び出したカピ丸にそんなものは聞こえませんし、関係もありません。カピ丸はこの世に生を受けてから5年が経っていましたが、はじめてキチンと息を吸えているような清々しい気持ちでした。 唯一の気がかりは、ただひとり集団で仲の良かったダウニィに、何も告げずに出てきたことですが、彼は頭脳明晰、スポーツ万能、おまけに誰もが拝みたくなるようなカリスマ性も持ち合わせているという根っからの天才なので、自分のようなヘッポコが心配することではないと思いました。おそらく彼は遠からず組織のトップに立って、より良い水カピバラの世界を作り上げてくれることでしょう。だけど僕はそれまで待てないんだ、ゴメンよ。そう心の中でつぶやきました。 そして、開放感に浸りながら、短い手足を器用に動かし、自分の思うがままに、行きたいと思うところへ、ビュン!ビュン!と泳いでいるときに、なにやら遠くのほうで泣き声のようなものが聞こえてきたので、辺りを見回して上を見ると、まさにディランの乗ったイカダがあったのです。 どちらかと言えば慎重派の彼は迷いましたが、恐る恐る近付いて、海から顔を少しだけ出して見てみると、おそらく人間の子供が、見たことない木の板の上で、1人でワンワンと泣いていました。おそらくというのは、やはりこの特別な海域には迷い込んでくる人間が定期的にいて、カピ丸自身も数回、人間を見たことがあったのですが、遠くから様子をうかがって、すぐに立ち去る程度だったので、確信がなかったからです。 なぜ立ち去ったかというと、その人間たちは、故郷の水カピバラたちと同じような嫌な顔と嫌な雰囲気をまとっていたからです。なので、すぐに踵を返しましたが、いま目の前でワンワン泣いている人間に、そのようなモノは感じられませんでした。カピ丸は迷いましたが、思い切って声をかけてみることにしました。 「おーい、おーい」 小さい耳をパタパタさせながら、少し控えめな声で呼んでみます。ディランも、なにか聞こえたような気がして泣くのを止め、ぐちゃぐちゃの顔のまま辺りをキョロキョロすると、くりくりおめめで、おチョボぐちの可愛いらしい生き物が、何やら緊張した面持ちでコチラを見ていました。 「キャー!キャー!」 満面の笑みで、両手を広げてヨタヨタと近付いていくと、その生き物はビックリしたようにボチャン!と慌てて海へ入ってしまいました。ふたたび独りぼっちになってしまったディランは、さらに大きな声でワンワンと泣き始めました。イカダのすぐ下の水中では、カピ丸が戸惑いながらその泣き声を聞いています。せっかく自由を手に入れたばかりなのに、面倒なことに巻き込まれたくないという気持ちがある一方で、今あの人間を放ったらかしにして行ってしまうと、あとあとから必ず自分は後悔してしまうような気がしていました。 そして迷ったあげく、今度はさっきの半分ぐらいだけ顔を水面に出したカピ丸。 「こ、こんにちわ。ボクは水カピバラのジョニーです。君はココでなにをしているの?」 ジョニーとはカピ丸の本名です。繰り返しますが、カピ丸というのは、のちにディランが勝手に名付けたものです。 「キャー!キャー!」 再び満面の笑みで走り寄ってきたディランに対して、今度はグッとこらえて、好きなだけ顔を触らせました。その手のひらからは敵意はまったく感じられず、ただ純粋な好奇心だけが伝わってきました。今までいたカピバラの集団心理は、これまでやってきた慣例を繰り返せば失敗はしない、新しいことにチャレンジするなんてもってのほか、もしやって失敗したら大バッシングの村八分が待っていると、お互いがお互いを意識し合って見張っているというものでした。カピ丸はそれに心底嫌気がさしていたのですが、自分の気持ちを押し殺していました。しかし今回、思い切って集団を飛び出して、自分の考えを信じて人間と接したことで、多少なりとも自分に自信を持つことが出来ました。図らずも自信を与えてくれたこの人間に感謝すると同時に、少し心配になってきました。なぜなら目の前にいる人間はあまりにも弱々しくて、幼くて、このまま1人でこの海を生き抜いていくのは到底ムリだと思ったからです。 とりあえずカピ丸もイカダに上がってみると、カピ丸は四つん這いですから、背はディランのほうが少しだけ高いようでした。ブルブルっと身体を震わせて水を飛ばし、目をぱちくりさせるカピ丸。ディランはキラキラした目で、カピ丸の周りをぐるぐるしながら、お腹を撫でたり、尻尾を握ったりしています。そんな中、カピ丸がふと下を見ると、汚いゴミのような物が落ちていましたが、よくよく見ると、生物の生殖器のようにも見えました。そして、まあゴミだろうと判断して、何の気なしに海へ落としておこうと、前脚で何度か蹴っていると、 「あーー!!!それいやいや!!ダメ!!」 と、血相を変えたディランがソレを拾い上げて、胸の中で大事に抱きかかえました。 「ご、ごめんなさい!勝手に必要ないものかと思ってしまって‥」 ペコペコと謝るカピ丸。 「よくできまちた!」 ディランはニッコリ笑ってカピ丸の頭をぎこちなく撫でました。 カピ丸はなんだか照れ臭い気持ちになりました。そしてカピ丸がぐるりとイカダを見回したときに、イカダの端っこに不自然に備え付けてある、赤い丸いボタンが目に入りました。 「ねぇ、アレはなに?」 ディランと一緒にボタンを覗き込みます。 「キャっ」 ぽちっ 「あっ!」 ディランが無邪気にボタンを押すと、イカダがガタガタと揺れ始め、ゆっくりと方向を転換し、カタカタと勝手に走り始めました。 イライジャが、もしもの事があった時の為に、自動で「部屋」へ戻れるようにプログラミングしていたのです。 カピ丸が困惑していると、イカダのスピードが突然ぐんっと上がった為、カピ丸はバランスを崩してイカダから投げ出されてしまいました。ディランは運良くペタン!とイカダに倒れたのでそのまま乗れていましたが、どんどんスピードを上げて走っていきます。 カピ丸は反射的にイカダを追いかけました。とにかくあの人間が心配だったのです。水カピバラは時速60キロで泳ぐことが出来ますが、普通のマグロが時速100キロなので、そこまで速いわけでもありませんし、遅いわけでもありません。カツオと一緒ぐらいです。ちなみにウサインボルトは時速45キロです。 しばらく追いかけっこをしたあとに、ようやく追いついたので、イカダの端っこをつかんで引っ張られながら、人間の様子を見ていました。 それからまたしばらくすると、不思議な浮遊物の前でようやく止まりました。それはのちにディランに聞くと、「部屋」というそうです。その「部屋」に乗ると、先ほどまでどこか元気がなくて弱々しいように感じていた人間に、みるみる生気が戻って元気に走り回り出しました。どうやら住み慣れた場所へ戻ってきて、少し安心したようです。 それから2人とイチモツひとつの生活が始まりました。しかしいったいこの人間は何を食べて生きていたのでしょうか、まさかこんなヨタヨタ歩きで食料の調達ができるようにはとても思えません。しかしとにかく食べる物は必要ですから、とりあえずふだん自分が主食としている小イワシを捕ってきて、ディランに食べさせてみると、 「‥おいちくない」 と言ってべぇ〜と吐き出してしまいました。 果たして、今まで一体どうしていたんだろうとカピ丸が首をひねっていると、 ぱしゃあん!びちびちびち!と、「サルワタリ」が飛び込んできました。「サルワタリ」とは以前からイライジャとディランが食べている例の人面魚のことですが、この海域では、大昔に食べた者が毒で死んだというデマが広がって、いつしか忌み嫌われる存在になり、よもや食べるなんてことは考えもしないというのが常識なのです。しかもイライジャが引き寄せられた独特の誘惑の香りも、空気に触れた時にだけ発生するようになっており、水中ではまったくの無臭なので、食べたいと思われることもなく、本当に知る人ぞ知る極上の珍味なのです。 「ヒイィィイ!!!」 ディランが待ってましたとばかりに「サルワタリ」にかぶりついて、ムシャムシャと食べはじめます。カピ丸はあまりの驚きでしばらくフリーズしてしまいました。あんなものを食べるなんて。人間はイカれてるんだろうか。カピ丸の頭には「サルワタリ」は食べてはいけないものだという考えが刷り込まれているのです。 だんだんとカピ丸の顔が歪んでいって、苦虫を噛みつぶしたような顔をしていたのですが、なにやらどこからともなく、とてつもなく食欲をそそる香りがしてきました。 そしてその発生源は紛れもなく、「サルワタリ」だったのです。 アレを食べたい。食べたくないけど、食べたい。どうしちまったんだ僕は、そんなわけがない、そんなわけがないんだ、ああ食べたい、かぶりつきたい、ウソをつくな何を言ってる!本音を言え!食べたい!やめろ!食べちゃダメなんだってば!ああぁ神さま、おおぉ神さま、ボクを赦したまえ、なにをだよ!だから食べないんだってば! さらに「サルワタリ」が次から次へとどんどん飛び込んで来ます。 ウソだろ!やめてくれ!頭がおかしくなりそうだ!アーメン!オーメン!ああ誰かボクを思いきり殴ってくれ、たのむ、ああいやだ、 ヨダレをダラダラと垂らしながら、必死に抵抗するように頭を振り回すカピ丸。 そのクチにディランがニコニコしながら「サルワタリ」をくわえさせました。 「はい、どう〜じょっ!」 がぶり 「美味い!!!」 うまい!うまい!うまい!ガツガツガツ!! こんなに美味いものがこの世にあるなんて! ガツガツガツ!!ああ、神さま、ありがとうございました‥  結局「サルワタリ」を15匹たいらげて、至福の満腹で倒れ込んで放心状態のカピ丸。 その後、彼にとってもサルワタリは大好物のひとつになりました。  寝る時は、見張りの意味も込めて、「部屋」の中央にあるキッチンの冷蔵庫の上で寝ることにしました。 「かぴまるぅ〜!鬼ごっこしよ〜!」 「ジョニーだってば。じゃあ僕が鬼で追いかけるよ、よーいスタート!」 キャー!!と笑顔で走っていくディラン。タッタカタッタカ手加減して追いかけるカピ丸。部屋の隅にまで追い詰めました。 「はい、ディランの負けだよ」 「いーやーだ!!」 そう言うと、ざぶーん!と突然海に飛び込んだディラン。カピ丸は焦りました。なぜなら、人間は水中では息が出来ない生き物だと聞かされていたからです。慌てて海に飛び込むカピ丸。ふと見ると、ディランがすいすいと背泳ぎをしていました。 胸を撫で下ろすと同時に、そんなディランを見ながら、カピ丸は改めて不思議でした。なぜ自分はディランを守ろうとするのだろう。危なっかしいから?それだけ?組織を抜けたのが実は心細くて、誰かと一緒にいたいだけ?考えても考えても答えは出ませんでしたが、毎日ディランと騒がしく過ごす毎日が、カピ丸にとって、忙しくもとても充実していた事は事実でした。 そんな慌ただしくて穏やかな日々に、思わぬ災難が降りかかる事になります。 それは朝早くに目覚めたカピ丸が、ディランの寝顔を確認してから、首を下に伸ばして海水をぴちゃぴちゃと飲んでいる時でした。 自分の舌の動きとは違う大きい波紋が反対側からやってきている事に気がつきました。顔を上げると、遠くの方から白い何かが海面の上を歩いています。それがだんだんとカピ丸の方に近づいてきて、くっきり何者かが判断できるようになった時には、もう全てが遅すぎました。 水カピバラのあいだで、言い伝えとして語られている事のひとつに、「腹がえぐれたホッキョクグマを見たら何を置いても一目散に逃げろ」というのがあります。大昔からこの海域に住みついている、そのホッキョクグマは、生まれた瞬間に母親を殺し、さらにそこに住んでいた何百という同じ種族のホッキョクグマを2日かけて皆殺しにして3日かけて食べ尽くしました。その後は目に入る生き物を容赦なく、いっさいの分け隔てなく、無慈悲に殺して行きました。彼はそのようにするために生まれてきた悪の化身です。理性などありませんし、会話も通じません。会話をする前に殺してしまうのですから、言葉を覚えようがないのです。そうして行く先々で残虐を繰り返していく様は、とうとうこの海域の三大災害のうちに数えられました。 そしてそれがあまりにも目に余った為、海域の主である、あの大ダコが粛清におもむいたのですが、腹をえぐられただけで逃がしてしまったのです。それがある意味伝説となり、腹がえぐれたホッキョクグマを見たら逃げろ、という言い伝えが残ったのです。 そして今まさに、右の脇腹がゴッソリえぐれたホッキョクグマが、カピ丸に向かって真っ直ぐ海面を歩いてきているのです。首をゆっくり回して、手をポキポキと鳴らし、どこを見ているのかも分からない据わった目で、白い息が鋭いキバのあいだから漏れ出ています。 カピ丸は、アレがあのホッキョクグマなわけがない、そんな奴と出くわすわけがない、と思いましたが、思いたかっただけでした。全身でビリビリと感じる威圧感と、身動きはおろか、呼吸さえさせないような鋭い眼光は、誰が何と言おうと、明らかに「ソレ」でした。 ウソでしょ、なんで?なんでよりによってココに?想像上の生き物じゃなかったのあれって。ていうかなんで普通に海の上を歩いてるの?で、なんかすごくイライラしてない?なんであんなにイライラしてるの?なにがあったの?僕に何の用なの?なんでコッチにくるの?なんで僕の身体はまったく動かないの?動けないの?どっち?くるよ、くるよ、、 そのときカピ丸の脳裏にディランの穏やかな寝顔がよぎりました。 動け、動け!手!足!腹に力を込めろ!歯を食いしばれ!お願いだ!動いてくれ! カピ丸の全身の淡いピンク色の毛がみるみる真っ赤に染まり、一本一本がまるで針のように尖っていきます。これがいわゆる「覚醒状態」です。水カピバラは著しく生命の危機を感じた時に、「覚醒状態」になることによって身体能力を向上させることができるのです。 勝負は一瞬でした。 眠りから覚めたディランが、イチモツをワキに抱えてヨタヨタと物音のする方へ行ってみると、片方の前足をもがれたカピ丸が血を流して倒れていました。 その傍らには目を背けたくなるような恐ろしい雰囲気の怪物が立っています。その怪物の手にはカピ丸の腕が握られており、ポタポタと血が滴っています。それを荒っぽく口に入れると、ガリガリと食べてしまいました。 呆然と立っているディランに気付いたカピ丸。  「ディラン‥危ないから‥今すぐ‥イカダで‥逃げて‥」 カピ丸は大声で叫ぼうとしましたが、身体に力が入らず、かすれた声しか出せません。 「きゃぴまるいじめたら!だっめっええええええええ!!!!」 ディランは張り裂けるような声で叫んで、カピ丸たちのところへ駆け寄っていきます。 ちがう、ちがうよディラン、逃げるんだ。コッチに来ちゃダメなんだよ、お願いだからあっちへ行ってくれ、くそっ、声がでない。 ディランはカピ丸を背にして守るように両手を思いっきり広げて、ホッキョクグマの前に立ち塞がりました。 眉間にシワをよせ、頬をふくらませて怒っています。 ああ、ディラン、やめてくれ、そんなことはしなくていい、しなくていいんだ、君まで殺されちゃう、お願いだから‥ この瞬間にカピ丸の脳裏には、ディランが今にも真っ二つにされる映像が何度も何度も頭をよぎり、悲しみと後悔で涙が次々に溢れ出てきました。この時カピ丸は、ディランは自分にとって、かけがえのない存在だという事を確信し、だから自分はディランを守ろうとしていたんだと分りました。 ディラン、ごめんね、守ってあげられなくて、ごめん‥ ディランは以前として、ホッキョクグマと睨み合いを続けていますが、なぜでしよう、もうとっくに八つ裂きにされていてもおかしくないのに、ホッキョクグマはディランを睨むだけで手を出そうとしません。それどころかゆっくりと後ろを向いて、そのままのしのしと帰って行ったのです。理由はまったく分かりません。幼児のディランに気圧されたとは考えにくいですし、カピ丸が致命傷を与えたというわけでもありません。しかしとにかく2人は助かりました。これは奇跡的な事です。未だかつて、腹のえぐれたホッキョクグマに遭遇して命が残ったのは、あの大ダコだけなのですから。 「‥ディラン、ありがとう‥」 ディランはカピ丸の身体にすがりついて、堰を切ったようにワンワンと泣きました。 そして8年後のいま、 ディランは、ウソみたいに美人で可愛らしい11歳の女の子に成長していました。 「うぅ〜ん!」 朝、「部屋」のベッドで目覚めたディランが大きく伸びをします。太陽の光が、絹のようなブロンドの長髪を照らし、キラキラと反射します。シーツをバサッと払いのけて、枕元に置いたイライジャのイチモツを頭に乗せます。それからオバケ帆立貝の乾かしたヒモでイチモツと頭を縛ります。ちょうどアゴの辺りでチョウチョ結びにする格好です。すると縛られた圧力によってイチモツからドロっとした半透明の液体が2滴ほど出てきて、顔を伝って垂れてくるので、それをペロッと舐めるのがディランのモーニングルーティンです。 そして、以前イライジャが作った真水製造機から出てくるシャワーで夜汗をキレイさっぱり洗い流し、パリっと乾かしたバスタオルでゴシゴシと身体とイチモツを拭きます。お人形さんのような整った顔をしたディランの肌は、毎日カンカンの太陽の光を浴びているにもかかわらず、透き通るような白色をしていました。 「さぁて。カピ丸ぅ!朝メシにしよかぁ!」 元気いっぱいでダイニングに入ってきます。 「今日はウニしか獲れなかったよ。しかも152匹も」 ダイニングテーブルには、こぼれ落ちそうなぐらいの大量のウニが山積みになっており、すでにカピ丸がイスに座って待っています。 「最高やないか!はよ食べよ食べよ!」 カピ丸は毎朝、ディランより少し早起きして海に朝ごはんを探しにいきます。早起きといっても、水カピバラの最適な睡眠時間は30分もあれば充分ですから、5時間寝ているカピ丸はむしろ寝過ぎているぐらいなのです。ちなみにカピ丸の寝床は備え付けの冷蔵庫の上から変わっていません。 テーブルを挟んで座り、ひと呼吸おきます。 2人は朝のこのすがすがしい空気と、この何気ない「間」が大好きです。今日も1日なにか楽しいことが待っている、そんな予感がするのです。 「ありがとうな、カピ丸!では!いただきます!!」 「いただきます」 ガツガツガツ!!ガツガツガツ!! ディランは素手でウニの殻を剥いて、どんどん食べていきます。ディランは見た目は華奢な美少女ですが、この海域で何年も生きてきて、色んな意味ですごくたくましく成長しました。 カピ丸はホッキョクグマに右の前足を落とされましたが、命に別条はありませんでした。しかし当然、今まであったものがなくなったわけですから、バランスを崩して、歩くことや泳ぐことさえも、うまく出来なくなってしまいました。そして自暴自棄になり、ふさぎこんでしまう時もあったのですが、そんな時はいつもディランが持ち前の明るさで沈んだ気持ちに寄り添い、そして引き上げてくれました。 今では身の回りのことはなんでも出来るようになり、4本脚の時より筋力が付いて、泳ぎ方も洗練された結果、以前よりはるかに速いスピードで泳げるようになったほどです。 おそろしいスピードで床の上の黒い殻の比率が大きくなっていき、2人はあっという間に全てのウニを平らげてしまいました。 「あー!ごちそうさんでした!」 「それじゃあ殻捨てにいこうか」 「はいよ〜!」 ボチャン!ボチャン! 手分けして海に投げ入れていきます。 2人とイチモツひとつで暮らし始めてから、何をする時も一緒で、もうお互いに家族のような存在です。はじめのうちはカピ丸も、ディランの事を我が子のように接して、身の回りの世話を全部やっていましたが、ディランに物心がついて、ある程度の事は自分で出来るようになってからは、むしろディランの方が持ち前の積極性を活かして、カピ丸をリードして引っ張っていく役割に変わりました。それを密かにカピ丸は微笑ましく思っています。 「あっ!カピ丸!もうこんな時間や!脱獄始まるで!早く早く!急いで!」 「ほんとだ!ちょっと待ってね!」 2人は急いで洗面所にいって真水製造機から出てくる水で手を洗ってからリビングに走っていきます。 ちなみに、真水製造機とは、イライジャが洋式トイレを濾過器に改造して、海水を流し込むと真水に濾過されるようにしたモノです。1時間で約25ℓほど生成できます。 そして、こちらもイライジャの改造した手動式テレビのクランクハンドルをぐいん!ぐいん!と勢いよく回すディラン。 カピ丸はソファにちょこんと座っています。 「映った?映った?」 「まだだよ、あと10回ぐらいじゃない?あっ!映った!」 「っしゃあ!」 走ってソファに飛び乗るディラン。 たんたたんら〜ん、どどん、どどん、ぱっぱら〜!どどん、どどん、ぴろり〜!! AV専門チャンネルの午前8時から毎朝放送されている、「昼下がりの脱獄」のオープニングです。ディランはこのドラマに出てくる主人公の城寺丈瑠(じょうじたける)の大ファンなのです。ディランが関西弁なのは彼の影響です。  簡単に内容を説明しますと、ヤクザの城寺丈瑠がドンぱちやったり、オレオレ詐欺をやったり、風俗の呼び込みをやったりして警察に捕まって刑務所に入れられるところから物語がはじまり、そこで女看守をたらし込んでカギを開けてもらったり、腕力で鉄格子をこじ開けたり、床に外までの穴を掘ったりしながら脱獄をし、愛人の恵子のアパートに行って情事を交わすという一話完結のストーリーです。 この番組を2人とイチモツでいつも見ています。ちなみに未だにAV専門チャンネルしか映りません。おそらく2人は他にチャンネルが星の数ほどある事を知らないでしょう。 「じょうじぃ〜!ええぞ!やったれぇ!そこや!よっしゃ!ナイスちんぽ!!」 ディランは毎日、大興奮でソファの上で飛び跳ねて応援したり、城寺の得意技のひとつである3回転ひねりをマネしたりしています。クライマックスの恵子との絡みのシーンも、とりあえず惰性で応援しますが、頭の上のイライジャのイチモツは、この時だけはほんの少しだけムクリと大きくなります。 カピ丸は本当のことを言うと、この番組が特に面白いとは思わないのですが、ディランが楽しんでいるので付き合ってあげているところが大きいです。ただ、城寺がいつもシャバに出てきた時に立ち寄る居酒屋で、食べている赤い魚はなんなんだろうと気になってはいます。 「今日の城寺丈瑠は身体のキレが悪かったね。もしかしたら体調が悪かったのかもしれないよ」 「それはウチも思っとった!やっぱせやんな!なんかおかしいなと思ってん!いつもは正拳突きの正拳見えへんのに、普通に見えとったもんな!あと恵子の役の人が変わっとったな!まあ恵子は別にどうでもいいねんけど!」 30分見終わると、ひとしきり2人で感想を言い合って終わりです。 「あ〜面白かった!ほな、そろそろ行こか〜!」 「そうだね、じゃあ行こうか。今日こそは見つかるかなぁ」 「うん、今日は見つかる気がする!」 「それ毎日言ってるけどね」 そう言ってカピ丸はふふふと笑いました。 そう、2人のルーティンはまだもうひとつあるのです。それは、あの大ダコを見つけて、イライジャを元に戻してもらうこと。 そしてイライジャにこの海域の出口を教えてもらって、脱出することです。 ディランやイライジャにとっては元の世界に帰れるということですし、好奇心の強いカピ丸にとっても外の世界は魅力的です、もっとも、ディランと離れるということが考えられないということもありますが。 意気揚々とイカダに乗り込む2人。 「はい!ジャーンケーン!ほいっ!」 イカダは下部に付いたスクリューで動きますが、それを動かすハンドルは手動なので、どちらが先に回すかは、毎回ジャンケンで決めます。ちなみに水カピバラの手の指は4本あるので、グーチョキパーすべて出すことが出来ます。 「僕の勝ちだね!」 「3日連続や〜ん!おっかしぃなぁ〜」 今日はカピ丸が勝ったので、ディランが先に回して、疲れたら順番に交代していきます。 「はい!じゃあ、しゅっぱぁーつ!!」 ディランが思い切りハンドルを回すと、勢いよくイカダが進んでいきます。 ディランは見た目は美少女ですが、中身はカラッと晴天の青空のような気持ちの良い性格をしています。人の不幸を心から悲しむことが出来ますし、人の幸せを心から喜ぶことができます。なかなか出来ることではありません。まさに天真爛漫そのものです。 それが天性のものなのか、この海域で特殊な育ち方をしたからなのかは分かりませんが。 対してカピ丸はもう少し冷静に世の中を見ています。しかし内なる炎はディランに勝るとも劣りません。2人は出会うべくして出会った最高のコンビでしょう。 「タコ!!出てこぉいやぁー!!」 この、およそ8年間、ほぼ毎日、海域を探し回っていますが、未だにタコの足1本見かけた事はありません。しかし海域の端から端はおおよそ制覇しました。全体像はつかめているのです。ではなぜ出口が見つからないのか。そう、どうやらひと所にとどまっている訳ではなく、その出口自体が移動しているようなのです。ですから、尚更イライジャの特別な嗅覚が必要なのです。 「今日はあっち行ってみよか?」 ニコニコと嬉しそうに北東を指さすディラン。歯並びの綺麗な白い歯が太陽に反射してキラリと光ります。 「そっちは一昨日行ったばっかだよディラン。僕はなんとなくアッチが怪しい気がするんだ」 小さい耳をピコピコ動かし、クリクリのつぶらな瞳を輝かせながら、カピ丸が南東を指差します。 「よっしゃ!じゃあそっちいってみよ!」 「ゴーゴーだよディラン!」 2人は本当に楽しそうです。 ちなみに今は昼の2時半過ぎですが、朝一からディランの頭にくくりつけられているイライジャのイチモツは、血流が滞って、紫色を通り越して、ドス黒く変色し、ぐったりと萎えきっていますが、しかし2人がそれに気が付いていないのも、いつものことです。こうして毎日、タコの足取りや出口の在処を発見することなく帰ってくる、けど楽しかった!というのがいつものルーティン、のはずでした。 「ん?あれなんや?」 少し先に、大型のトラックが浮いています。明らかにこの海域のモノではありません。つまり外の世界からこの海域に入ってしまったモノのようです。それ自体はよくあることで、ディランたちもこれまでかなりの数、見てきました。 「あっ、またアイツだよ、ディラン見て」 そのトラックに手作りのカヌーでゆっくりと近付いていく1人のメガネの男。この男も実は外の世界から、この海域に入ってしまった人間なのですが、大ダコに寿命を20年献上して、抹消を免除してもらってココの「住人」となってからは、ああやって迷い込んだ人間が発生すると、何処からともなくあのカヌーで現れて、その人間と接触し、混乱を優しくなだめて介抱し、相手が自分に心を完全に預けた状態にしてから、それが男ならばナイフで胸をひと突きにして、驚きながら死んでいく様を見て自慰をし、それが女ならばいったん睡眠薬で眠らせてからレイプし、目覚めたら何事もなかったように接して、また眠らせてレイプするというのを4.5回繰り返してから、同じように胸をひと突きにして、驚きながら死んでいく様を見て自慰をする、という事を専門にやっています。 ディランとカピ丸は、この人間と一緒に迷い込んだ人間を救助をしたこともありますが、あとは僕に任せてください、万事抜かりありませんのでと、しつこいぐらいに、半ば狂気的に連呼してくるので、そこまで言うならあとはよろしくと、その場を立ち去ったり、あるいはもうすでに救助を終えてカヌーで運んでいる時に遭遇して、カヌーの上から、もうお前たちにすべき事はないから、気にせず先へ行けというジェスチャーを目を血走らせて必死にしてきたりしたので、なにか違和感のようなものを感じながらも、こちらも、ああじゃあよろしくと片手を上げたりしながら、そのまま通り過ぎたりしたことがありました。 ディランとカピ丸は、各々が、その人間の顔つきが生理的にどうしても受け付けたくない雰囲気を纏っていたと感じていて、それについて話している時に、その意見が一致していると分かってからは、2人の間で、あの人間のことを変態メガネと呼んでいました。 この時も変態メガネは大型トラックの中で気絶しているヤンキー風の若い女性運転手を救出してカヌーに乗せて漕ぎだそうかというところです。 そこに突然、海から飛び出してきた大量のピラニアが一斉に変態メガネの身体に食らいついてきました。 ギャっ!と短い悲鳴を上げたのみで、抵抗する間もなくみるみる面積が小さくなっていきます。あっという間に食べ終えたピラニア達がふたたび海へ一斉にバシャバシャと戻っていくと、バキバキに割れたメガネだけが落ちていました。 ディランたちは、急いでカヌーに取り残された女性を救助しました。 イカダに乗せて「部屋」に連れて帰り、ベッドに寝かせると、2時間ぐらいで目を覚ましました。 「そう、あんたたちが助けてくれたの。本当にありがとね」 その女性はひどく疲れた様子で、こめかみを押さえながら言いました。 女性の名前は柊咲良(ひいらぎさくら)。21歳。日本で長距離トラックの運転手をしています。元々は親の勧めで地元の企業に就職しデスクワークをしていましたが、昔からの無愛想で無表情なところが災いし、職場で上手く馴染めず孤立していた咲良を見かねた上司が、 「トラックの運ちゃんなら、ずっとひとりだし、人付き合いもしなくて良いからちょうど良いんじゃない?」 と、知り合いの社長が経営しているトラックの運転手を勧めてきたのでした。当初、咲良自身は、特に夢もやりたい事もなく、惰性で生きてるような状態だったので、「変化」や「新しいこと」を極端に遠ざけて、嫌っていました。なので、面倒な提案してくれるなよ、私は別にこのままで良いんだよと思いましたし、上司からしてみても、職場の厄介者を排除すれば自分の会社での株も上がると考えたのかもしれません。なので咲良はまったく転職する気はなかったのですが、その上司があたかも咲良が気持ちを固めたかのように勝手に言いふらし、それを信じた周りの社員もそういう雰囲気を作り出し、挙げ句の果てに送別会まで開かれて、本人の意思とはまったく関係なく転職が決まりました。 ですから、運送会社に初めて出勤する日の朝は、いよいよ訳がわからないと思っていました。しかしそれらも全て身から出たサビと言わざるを得ません。自分の意思を示さなかった、示してこなかったツケが回ったのです。 しかし、いざ嫌々ながらも新しい職場で働いてみると、ソレは幸運にも咲良の性格にがっちりハマったのです。昔から車の運転は好きで、なおかつ上手かったのと、なにより煩わしかった人間関係から解放されたのが大きかったようです。もちろん積み下ろし作業の際などには人と関わることもありますが、作業に集中してればすぐ終わりますし、体力にも多少なりとも自信がありました。咲良は運転技術の高さと空いている道を瞬時に判断する能力がずば抜けていて、同僚のトラック野郎たちに比べて配達スピードが群を抜いていました。 それによって社長賞を貰って、壇上で表彰されたこともあります。金一封は20万円も入っていたので、一生呑むことはないと思っていた高級ワインを思い切って買うことが出来ました。 咲良は配達をさっさと終わらせて、空いた時間で映画館に乗りつけて好きな映画を観るのも密かな楽しみでした。 そんな充実したトラックライフを送っていたのですが、不幸は突然やってきました。 3日前に静岡の海沿いの山道を走っている時に、突然シカが飛び出してきて、それを避けようとして急ハンドルを切ってしまい、ガードレールを突き破ってトラックごと海へ転落してしまったのです。 幸い運転席部分は沈まなかったものの、咲良は意識を失ったままどんどん沖へ流されて、不幸にも「この海域」に流れ着いてしまったのです。 「アタシがディランで、こっちがカピ丸やで!よろしくな!」 ニッコリ笑って右手を出すディラン。 「わたしのことはサクラって呼んでね」 2人はギュッっと握手をしました。 ディランの手は細くて柔らかくて、優しさと同時に秘めた強さも感じられました。 「どこか痛いところはない?」 カピ丸が聞きます。 「あちこち擦りむいてるみたいだけど、大きなケガはなさそうよ。ありがとう」 咲良はカピ丸が普通に喋ることに、割とすぐ受け入れて会話をしました。いや、そうしなければいけませんでした。周りを海に囲まれた、天井も壁もないこの小さな「部屋」で、幼い女の子とピンク色のカピバラが暮らしている。この異常性は、パニックを起こして気が狂いそうになるのをグッとこらえて、何事もないようにその場に自分を馴染ませるほうが正しいと判断したからです。まずは状況を把握しなければいけない。そういう柔軟なところが本来の咲良の持つ長所のひとつでもあります。しかし一点だけどうしても気になる事がありました。 「ディランちゃんさ、その、頭に乗っけてるのって、、」 「あっ!これ?!これはイライジャやで!」 ディランがイチモツをさすります。 「‥イライジャ?」 「イライジャはディランの命の恩人なんだけど、タコにこの姿にされちゃったんだ。しかもイライジャは唯一、この海域の出口が分かる存在だから、タコにお願いして戻してもらって脱出しようと思ってるんだ。まあ、急にそんなこと言われても分からないだろうけど」 カピ丸は、人間の住む世界がこの海域とは違うということを理解していて、そのことを配慮しながら咲良と接していますが、もちろんまだ咲良の事を信用してはいません。自分達にとってどういう利害があるのか、害があるとすれば排除できるのか、そういう考え方は この海域では、いや自然界ではごく当たり前の事です。 「‥ん〜」 少しの間、頭を回転させようとした咲良ですが、すぐにあきらめました。完全に自分の理解の範囲外のことをいくら考えても、無駄なだけですから。 「そういうことね」 咲良はわずかに微笑して、いっさい分からないけど分かったことにしました。 ちなみに咲良もふつうに美人です。目は大きくキリッとしていて、八重歯があります。いわゆるクールビューティーに分類されます。基本的に無表情で、いつも少し眠たそうな目をしているので、不機嫌なのかと思われることが多いですが、本人はむしろ少し上機嫌なことの方が多いです。体型もすらっとしていて姿勢も良く、適度な肉付きも申し分ありません、残念なのは胸がBカップなことぐらいですが、乳首が透き通るほどキレイなので、プラスマイナスでいうと、大きくプラス側になります。 「なんか分からんことあったら、なんでも聞いてな!でもカピ丸の方が頭イイし、説明も上手いで!」 少しだけカピ丸の鼻がふくらみます。 「うん、本当にありがとね」 咲良もニコリと笑いました。状況は全然分からないし、自分はこれからどうなるんだろうという不安が、心の大半を占めていますが、あの2人は私の事をどうにかしてやろうと企んでいるような存在ではないという事だけはなんとなく分かりました。思いたかった、という部分もあったと思いますが。 そのあと、すぐに夕飯の時間になり、カピ丸が捕ってきたタラバガニ魔人を咲良と3人で食べて盛り上がりました。 ほとんどはディランが機関銃のように喋っていましたが、お互いに色んな話をする中で、少しだけ打ち解けることが出来ました。 その日の深夜2時半頃。 ディランと咲良がダブルベッドで並んで寝ています。カピ丸はいつもの冷蔵庫の上で夢を見ています。 そうして、みんなが深い眠りに入ったころ、ディランの枕元に置いたイチモツが、突然ムクリと勃ちあがります。 そのままモゾモゾと睾丸を順番に前後に動かしながら、前に進んでいきます。今まで自ら動いたことはありませんでしたし、付き合いの長いディランでさえ、その事実を知りません。しかし今は事情が違うのです。まさに動くべくして動き始めたイチモツは、まっすぐ咲良を目指します。 そして咲良の顔の真横にまできて、陰茎をゆっくりと持ち上げて、咲良の両眼を覆うように何度かペシペシと振り下ろします。これは何をしているのでしょうか。眠りの程度を確かめているのでしょうか。そしてまた睾丸を順番に動かして、咲良の布団にもぐり込みました。 咲良は下半身に違和感を感じて、ボヤっと眠りから現実に戻ってこようとしていました。 そして、確実におかしいと確信して布団をバサッとめくってみると、あの「イチモツ」が股の間で一生懸命にもがいていました。脚を広げるのに苦労していたようで、挿入はされていませんでしたが、ズボンとパンツはきれいに脱がされていました。 気付かれた!と分かると、イチモツだけとは思えないような強い力で無理矢理にでも挿れようとしてきました。 訳がわからず、両手で必死に押しとどめる咲良。 なに!?なんなの!?ちょっと待って!! 今まで咲良が見てきた、どの男のイチモツよりも遥かに大きく、猛々しくイキリ勃っています。 「うぅ〜、、ダメェ、、」 さらには先っぽからドクドクと粘液を排出して、咲良の手を滑らしにかかってきました。ヌルヌルになっなイチモツは、咲良の指のあいだを徐々にすり抜けて、先っちょが陰部に少し当たります。もうダメだ、限界! 「でぃ、、ディランちゃん!!!助けて!!!」 その声にガバッと飛び起きるディラン。それと同時ぐらいにカピ丸も飛び込んできました。いつ何時どんな危険が降りかかるか分からないというのが、何年もこの海域で暮らしてきた2人の経験値ですし、実際に何度も危ない目にあってきましたので、普段から周囲に注意を払いながら生活をしています。しかも壁も天井もない剥き出しの「部屋」に住んでいますから、寝るときは特に危険です。ですから少しでも異常な物音がすれば飛び起きるようになったのです。しかも2人はそれらを無理してやっているわけではなく、習慣として身体に染み込んでいるので、疲れるとかしんどいとかはないのです。 「イライジャ!なにしてんの!アカン!やめとき!!」 ディランとカピ丸が、それぞれひとつずつ睾丸を引っ張ります。 「うぬぬぬぬぅ、なんてチカラだ」 カピ丸もなかなか腕力のあるほうですが、それでもびくともしません。しばらく膠着状態が続きましたが、ディランとカピ丸の手も粘液でヌルヌルしてきて限界を迎えそうになっていました。玉袋は左右ともに1メートルぐらいにまで伸びています。 「サクラ!一瞬だけ挿れさせてやったらどうだい!?」 「イヤ!!!」 カピ丸の提案は一蹴されましたが、それによってディランが何かを思いつきました。 「カピ丸!ちょっとだけコッチも持ってて!!」 「えっ!ムリだよ!!ダメダメ!」 ディランは強引に右の睾丸をカピ丸に預けて、キッチンへ走っていきました。カピ丸は左の前脚で左の睾丸を、クチで右の睾丸をくわえて、全身をのけぞらせ、汗をダラダラと流しながら耐えています。咲良も、さらに大きく膨張していくイチモツをなんとかギリギリの所で止めていますが、今にも指のあいだから突き抜けそうになっています。その時、ディランが急いで戻ってきました!肩には、このあいだ海でたまたま拾ったウイスキー樽が乗っています。 「いくでっ!!!」 ざっばぁあーん!!! イチモツはもちろん、カピ丸も咲良もびしょびしょになり、あたりにウイスキーの香りが充満します。咳き込んで、思わず力を緩めてしまう2人でしたが、イチモツはすでにへなへなに萎えていました。 「みんなありがとう、ごめんなさい助けてもらってばっかりで」 シャワーを借りてお酒を洗い流した咲良。「いやいや、そっちが謝るのはおかしいよ。こっちこそイライジャがゴメンな。よっぽど溜まっとったんかな」 イチモツは、だらんとだらしなくベッドの縁に垂れ下がっています。 「凄まじい欲望の力だったね。でもよくお酒が効くって分かったね」 「あれはただの勘やで。一か八かや。イライジャがいつも酒呑んでフラフラになっとったし」 次の日からは3人とイチモツひとつで、いつもの大ダコ探しに出かけるようになりました。咲良は、なんとなくディランの頭の上のイチモツが、ずっとコチラを見ているような気がしてなりませんでした。もちろんイチモツに目なんかありませんから、見ているといってもなんとなくの気配、としか言えませんが、終始イヤな視線を感じていました。それはディランもなんとなく感じたので、定期的にイチモツにキツめのデコピンを食らわしていました。 そうして約1ヶ月ほどが経ちました。もうその頃には、咲良もこの海域での生活に慣れてきて、カピ丸も咲良を警戒することはなくなっていました。 ある日の午後、「部屋」に帰ると、ディランと咲良が知らない水カピバラが2匹、ダイニングテーブルに座って、カピ丸がオヤツにと思って天日干ししていた星アワビをむしゃむしゃと勝手に食べていました。 「おぅ、久しぶり」 馴れ馴れしく手を上げた手前の水カピバラは、カピ丸より少し背が小さくて、目つきが悪く、性格の悪そうな顔をニタニタとさせています。もう一方の奥にいる水カピバラは、背が高くすらっとしていて、まだ若そうな感じで、そっちはただニヤニヤしながら星アワビを食べています。 「ああ、サルビーか。久々だね」 カピ丸は抑揚のない声で答えました。目が据わっています。カピ丸のそういう顔を初めて見たディランは少しドキリとしました。 「なかなか豪勢なとこに住んでるな」 サルビーはそう言って、何がおかしいのかクククと2匹で顔を見合わせて笑いました。 プッっと星アワビを床に吐くサルビー。 「オレなぁ、この前、高級士官に昇級したんだよ。そんでコイツが部下のヒルルだ」 奥の水カピパラをアゴで指す。カピ丸はとくに何も答えません。不穏な空気のカピ丸と2匹の様子を伺っている咲良。ディランはここは自分が出しゃばる所ではないと判断し、腕を組んで仁王立ちの姿勢になりました。 「コイツはまだ若いけど、お前が組織にいた時より階級は上だぜ?」 再び顔を見合わせてクククと笑います。 「で、なんの用なんだい?」 抑揚のない声でカピ丸が聞きます。 「おまえウワサになってるぞ。組織抜けて人間のガキと毎日ふらふら訳の分からない事してるって。悪いこと言わねぇから戻ってこいよ。今ならオレが将官に口添えしてやっからよ。同期のお前がこんなとこで腐ってるって思われてたら、オレだって嫌なんだよ」 汚い目つきを、さらに細めてニタニタ笑います。カピ丸のピリピリした空気をビシビシ感じる咲良は少し動揺しています。ディランはクチを真一文字に結んだまま動きません。 「ダウニィに言っといてよ。戻る気はないって」 サルビーの眉間にシワが寄ります。 「‥ダウニィ?‥ああ、あのポンコツか!」 2匹は大声で笑いました。 少し前にも書きましたが、ダウニィとはカピ丸が組織にいた時に唯一、仲が良かった水カピバラで、頭脳明晰、スポーツ万能、おまけにカリスマ性も持ち合わせたエリートで、将来トップに立つことは確実とされていました。 「大将にそんなクチ聞いて良いのかい?」 「たいしょう!!!ガハハハハ!!ヒッヒッヒっ!!!ふぅ〜、アッハッハっ!!!」 2匹は転げ回って大笑いしました。イスやテーブルをガンガン蹴ったり叩いたりしながらひとしきり笑い終えると、涙を拭きながらサルビーが言いました。 「アイツはお前が抜けたあと、お前と同類扱いされてハブられてからは、オレらのうしろをただ黙ってくっ付いてくるだけのゴミみないな奴だぜ」 そしてまた転げ回って大笑いし始めました。 「いまどこにいる?」 顔色を変えずにカピ丸が聞きます。 「は?だれ?ゴミ?戻ってきてオレの部下になるっていうんなら教えてやるよ。まあまずは10年ぐらいコイツの下だけどな」 親指で奥のヒルルを指すサルビー。そしてまた笑い始めようとした時、激しい痛みと共に全身が床にめり込んでいました。 訳が分からず呆然と倒れているサルビーを、左の前脚を握りしめた無表情のカピ丸が見下ろしていました。 「5秒以内に言え。次は殺す」 2匹はガクガク、ぶるぶると震えながら体を寄せ合って水中へ帰っていきました。 「ディラン、ごめん、ちょっと用事ができちゃったんだ。少しの間だけここを離れて良いかい?」 カピ丸は申し訳なさそうであり、そして何より悲しそうでした。 「なに言うてんねんな!かまへんよ!コッチの心配は無用やで!」 ディランはニッコリ笑ってサムズアップしました。 「咲良、悪いけどよろしくね」 カピ丸はニコリとしましたが、元気はありませんでした。 「こっちのことは任せて。カピ丸も気をつけてね」 「ありがとう。じゃあ、行ってくるね」 カピ丸が行ってしまったあと、残された2人もカピ丸が心配で、黙ったまましばらく動けませんでした。 カピ丸はサルビーが言っていた、水カピバラたちのいる場所までグングン泳いでいきます。水カピバラも基本的には水中で泳いで生活しますから、ひとつの所にとどまっているということはなく、季節や食べるものによって常に流動的に変わります。 2日ほどかけて言われた地点付近に行ってみると、たしかに水カピバラの集団がいました。懐かしい顔もいますが、半分ぐらいは知らない顔に変わっていました。その集団の最後尾から少し離れたところに、力なくフワフワと浮くように集団についていくダウニィの姿がありました。精悍だった顔つきは、魂が抜けたようひ覇気がなく、誰よりもたくましかった身体も痩せ細ってガリガリで、肋骨が浮いているほどでした。カピ丸はゆっくりとダウニィに近づいて行きます。 「あっ、ジョニーだ」 「今さらなにをしにきたんだ」 カピ丸に気づいた水カピバラ達が、ヒソヒソ話を始めます。その中にいるサルビーとヒルルだけは、怯え切った表情で見つめていました。 ダウニィもカピ丸に気付き、痩せこけてくぼんだ目に、少しだけ光が灯りました。 「ジョニーじゃないか、どうしたんだよ、もしかして戻ってきたのかい?」 ダウニィは引きつった笑顔で言いました。 カピ丸はダウニィと向かい合ったまま、ただただ悲しそうな、憐れむような顔で見ていました。そして、ダウニィの顔を力の限り本気で殴りました。 血を吐きながら吹っ飛んでいくダウニィ。海底に叩きつけられて砂埃が舞います。糸が切れた操り人形のようにダランと倒れているダウニィ。もはや痛々しさしかありません。驚いたような目も、くぼんで目が浮き出ているからなのか判断がつきません。もしかして死んだんじゃないか、水カピバラ達はどよめいています。カピ丸は海底に降りませんでした。一言も発しませんでした。それが尊敬していた親友に対する、精一杯の言葉でした。カピ丸はそのまま黙って方向を転換し、その場を去りました。 一方そのころ、ディランと咲良のいる「部屋」に、あの半魚人が襲来していました。 「いやいやお久しぶりでございます。お元気でしたか、お元気そうですね、いやまあなんとお美しくなられまして、目のやり場に困るほどでございます、はい」 半魚人は以前と変わらず、異様で気持ちの悪い雰囲気を醸し出しながら、ソファに座って、何処かから調達してきた人間の男の死体を脇に抱えています。そして鋭い爪をスッと男のうなじに滑らせると、ドクドクと血が湧き出てきて、それをもう片方の手に持ったワイングラスで受け止めます。グラスに八割ほど血がたまったところで、男を床へ投げ捨てました。 「ちょっと、失礼しますよ、こういうのは鮮度が命なものですから。後悔してからでは遅うございますので」 小指を立てながら、優雅にゴクゴクと飲んでいく。 「ふぅ。美味しゅうございました。やはり三時五五分に殺した血に限ります。ああ、こちらのグラス、お借しいただきまして、まことにありがとうございました」 グラスを机の上に置き、スッと前へ押し出す半魚人。 「いらんわ。自分で捨ててこい」 ディランは明らかに憤っていました。 「何しに来たんかしらんけど、まずウチの母ちゃんを食べたこと、土下座して謝ってから自分で死んでくれるかぁ」 ディランは自分を抑えるのに必死でした。 咲良は一気に色んな情報が入ってきたせいで、まだ頭が追いついていません。 「ああ、それでさっきからなにやらお怒りになられているのですね、それは失礼致しました、その件に関しましては、ワタクシの趣味嗜好の問題でありまして、致し方ないと思って頂けると存じますが、やはり感情というものが存在する我々にとっては避けては通れない部分でもあり、大変申し訳なく思っておる次第でございます」 軽く頭を下げて、ニヤリと笑う半魚人。 「土下座せぇゆうとんねん。お前はこの世におったらアカン存在や。なんやったらウチが殺したるぞ」 「いやはや、そんな特別扱いをして頂いているとは、まことに嬉しい限りでございます。今まで汗水流して精進してきた甲斐があるというものです、後悔のないように、重ねがさね感謝の意を申し上げさせて頂きます」  「咲良、ちょっと下がっといてや」 「えっ!?」 ディランが腰を落として両手を構えます。 「ジョージ流、脱獄拳!!!」 凄まじいスピードで繰り出された正拳突きが半魚人のオデコに直撃しましたが、半魚人は微動だにせず微笑んでいます。 「ジョージ流、脱獄斬!!!」 懐から取り出した包丁で鋭く肩を切りつけますが、包丁が真っ二つに折れてしまいました。 「ニュビビビビイィ!!以前にも申し上げましたが、わたくしに物理的な事象は無意味でございますので。そういえば、それはそうと、この前いらっしゃった威勢の良い粗野な男が見当たりませんが、どちらかへお出かけですか?それとも‥あぁ、そういうことですか。その頭の上のソレ。ソレがあの男でございますね?いやいやなんと滑稽なことで御座いましょう。ニュビビビビィ!!」 「イライジャを笑うな」 睨むディラン。 「いやいや失敬、まことに滑稽、これは笑わずにはいられませんので、後悔のないように、思い切り笑わせていただきます。ニュビビビビィ!ニュビビビビィ!ニュビビビビィ!!」 その時、ディランの頭の上のイチモツがビュッと粘液を吐き出し、半魚人の顔にぴちゃっとかかりました。笑うのを止め、ヌルッとした粘液を手に取る半魚人。 「おやおや、カウパーですね。わたくしめなどに興奮して頂けるとは、大変光栄でございます。ところでそちらのお嬢さんはどちら様でございますか?以前はお見かけしなかったように存じますが、わたくしの見落としでしょうか、どちらにせよ、今ちょうど22歳と5ヶ月とお見受けしますので、現時点での最高の部位は肝臓になりますからして、誠に僭越ながら、頂戴することは可能でしょうか、可能ですね」 ニヤリと笑う半魚人。 ゾワっと全身に寒気が走る咲良。さらに全身が石になったように動けない。 「ジョージ流、脱獄弾!!」 イライジャお手製の手榴弾のピンを引き抜き、半魚人の口へ押し込み、頭とアゴを押さえるディラン。 ドォーーーン!!! 後方へ吹き飛ぶディランと咲良。すぐに起き上がるディラン。咲良へ駆け寄ります。 「すまん咲良!大丈夫か!?」 「平気よ。おかげで身体が動かせるようになったわ」 「ニュビビビビィ!実に愉快でございます。口に爆弾を押し込まれて殺害されたのは織田信長が有名でございますが、ワタクシはまさに、過去の偉人と同じ体験をすることが出来たという事でありまして、これまた大変貴重なエクスペリエンスでありました。感謝を申し上げるとともに、もうひとつ、あなた方にとりまして、大変、興味深いお話がありまして、今日はその為に伺った次第でございます」 ディランと咲良は黙って半魚人への警戒を続けている。 「それでは後悔のないように申し上げさせて頂きますけれども、まず、あなた方が普段から、あの大ダコを探し回っているという事は、周知の事実でございまして、これは揺るぎようのない事でございますから、そこへもってきて、ワタクシめが、そのまさに大ダコの居場所を知っていると言ったならば、果たしてどうなるでしょうか、ワタクシのようなものは、その先の展開が非常に気になって仕様がないのでございます」 コイツの言うことを信用して良いのだろうか。いや、信用などはしてはいけない。一寸たりともするべきではない。コイツには少しも心を委ねてはいけない。しかしその上での行動はするべきだ。おそらくそれは咲良を守る唯一の方法になるだろう。ディランは腹を括りました。 「そこへ案内してくれると?」 「ニュビビビビィ!御名答、まさにその通りでございます」 「それがお前にとってなんのメリットがあんねん」 「それは来て頂いてからのお楽しみでございまして、今ここで申し上げてしまいますと、その喜びは半減どころか、失われてしまうのではないかと思うぐらいでありますから、なんとかここは堪えて頂きまして、ワタクシに御同行いただければ、これほどに幸せなことはございません」 「わかった、でも行くのはウチひとりやで」 「えっ!?ディランちゃん!ダメだよ!行ったらダメ!絶対にダメ!」 咲良はディランの腕と腰のあたりの服をガッシリつかんで必死の形相で叫びます。 「私は絶対に離さないからね!ここにいるんだよディランちゃん!」 ディランは咲良の手に手を重ねて優しく言いました。 「もしカピ丸が帰ってきたら言っといてくれる?タコが見つかったから、外の世界に行けるよって。すぐ帰るから待っといてなって」 咲良は言葉が出てきませんでした。その時のディランのは、あまりにも落ち着いていて、頼り甲斐があって、自分が引き止める事はもしかして間違っているのではと思うほどで、とても小学生ぐらいの女の子だとは思えない風格がありました。 「ニュビビビビィ!それでは参りましょうか」 「ほな!ちょっと行ってくるわ!イライジャよろしくな!」 ディランはイチモツを私に預け、いつも見せてくれる元気な笑顔でニッコリ笑いながら、イカダに乗って行ってしまいました。
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