5人が本棚に入れています
本棚に追加
ささやかな幸せの未来
その日は卒業式の前日だった。
午前中を卒業式の練習に費やした後、午後はクラス毎に行われるお楽しみ会があるからと、私はいつもよりちょっとだけ早起きして、髪の毛のセットに時間をかけた。特別な日はサイドだけを三つ編みにして後ろで結んだサイドハーフアップに決めていた。
一旦は完成したと思ったけど、右と左の太さが違う気がして、苦労して作った三つ編みをやり直す。ああもう、せっかく早起きしたのに台無しだ。
「亜美、いつまでやってるの! ご飯食べる時間なくなるわよ!」
「わかってる!」
お母さんのキンキン声に言い返して、急いで三つ編みをやり直した後、憤然とダイニングテーブルについた。
おかずは弁当の残りの卵焼きと、昨日の夜の残りの餃子が二つ。今日みたいな日に、朝から餃子なんて食べられるはずがない。もうちょっと考えてくれてもいいのに。
私は不貞腐れながら、白飯を味噌汁で流し込むようにして一気に平らげた。
「じゃあ、行ってくる!」
「忘れ物ない? これ、お弁当!」
お母さんが弁当箱の袋を押し付けるように渡して来た。
わかってる。今しまおうと思ってたんだってば。
リュックの奥に押し込みながら、ふと、思い出した。
そっか。お母さんにお弁当作って貰うのも、今日が最後なんだ。
ちらりと盗み見たら、お母さんは台所で忙しそうに動き回っていた。
お礼、言った方がいいかと思ったけど、まあいっか。帰ってからにしようっと。
胸にちょっぴり浮かんだ感傷ごと、後回しにする。時計を見たら七時十三分。いけない、もう三分も過ぎてる。
「行ってきまーす!」
私は大きな声で叫び、家を飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!