ささやかな幸せの未来

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 私が通う富葉高校までは自転車で二十分近くかかる。同じ町内だけど、私の家は海の近くで、高校はずっと内陸に入った高台の上だ。  海沿いの街と言うと凹凸の少ない平らな街を 想像する人も多いかもしれないが、私が生まれ育ったような東北の沿岸部というのは、 海に面したごく限られた狭い場所に無理やり町を作ったような所があって、 基本的にはどこを歩いても坂道だらけだ。  海に近い私の家から、高台にある高校まではひたすら太ももを 酷使して、自転車のペダルを一生懸命こぎ続けなければならない。  南北に伸びる国道六号線まででやっと半分。  県道に入り、角を曲がった高校までの最後の上り坂が一番ひどい。どうしてこんな山の上に学校を作ったんだろうとこの三年間の間に何度恨めしく思ったことか。でもこの坂をひいひい言いながら登るのも、今日と明日の二回で最後だ。 「亜美、おはよー」 「沙耶ちん、おはよっ」  ぞろぞろとゾンビの群れのように坂を歩く制服の中に友達の姿を見つけ、これ幸いと私は自転車から飛び降りた。 「フリ、覚えた?」 「うん。昨日の夜もやってなんとか。どうしよう、今から緊張しちゃうね」 「大丈夫でしょ。うちらは頑張ってる方だと思うよ。鈴木の班なんてなぞなぞやるって言ってたよ。小学生かっての」  今日のお楽しみ会は、卒業を前にしたお別れ会みたいなものだった。それだけにみんな、放課後遅くまで残ったり、休みの日にも集まったりして準備をしてきたのだ。
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