ささやかな幸せの未来

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 高校最後のお弁当は、いつもと同じ見慣れたものだった。  私の好きなタルタル入りの白身魚フライにだけほんのちょっぴりお母さんの善意が現れていて、私の嫌いなミニトマトとひじきの煮物という悪意も最後までしっかりと詰め込まれていた。  最後のお弁当だから、ネットで見たみたいに、手紙でも入ってたらどうしようとちょっと期待したんだけどな。  迷った末に、私は食べ終わった弁当の蓋に付箋を一枚貼り付けた。 〈今までお弁当作ってくれてありがとう〉  毎日喧嘩ばかりしてるお母さんだけど、もうすぐ離れて暮らす事になるわけだし、このぐらいのサービスはしてあげたっていい。それに直接言うのは照れ臭いけど、この方がスマートだ。  お弁当洗おうとしてこれが出てきたら、どんな反応するかな? まさか泣いたりはしないだろうけど。  お母さんの喜ぶ顔を想像し、リュックの一番下に、楽しみごとお弁当箱をしまった。  午後から始まったお楽しみ会は本当に楽しくて。  私達が隠れて練習してきたダンスは完璧とまではいかなかったけどとっても好評だったし、なんだかんだ言って鈴木の班がやったなぞなぞも意外と盛り上がった。  答えを当てた人はピコピコハンマーで鈴木の頭を思い切り殴っていいという趣向の代わりに、問題として出されるなぞなぞは恐ろしく難易度が高くて、答えを当てる度、鈴木が殴られる度に大歓声と拍手が飛び交った。 「それでは次が最後の問題。猿のお尻は赤いのですが……」  ぎゃあぎゃあと騒がしい教室の中で、誰かが口にした「地震?」という言葉が伝播していく。次第に静まり返る教室とは反比例して、足元から響いてくるドドドドド……いう聞いた事のない地鳴り。  ビャッビャッビャッ! ビャッビャッビャッ! と教室のあちこちから変な音が鳴り出した。それが私達の携帯が鳴っている音だと気づいた次の瞬間ーー  ドンっ!  と突き上げるような揺れが私達を襲った。
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