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トイレのドアの向こうから返事が来たのである。一人暮らしで予想外な出来事が起きると無性に孤独を押し付けられる様だ。
中にいるのは誰だ? 忘年会に来ていたメンツを思い起こす。
後輩の斎藤くん、田中くん、鈴木さん。先輩の五十嵐さん。そして、チームリーダーの山本さん。そして俺を含めた6
人でグループを組み仕事をしている。
ダメだ……一緒に家まで帰ってきた記憶が全くない。というより覚えてない。
もう一度、俺はドアをノックして問いかけてみた。
コンコン……
「誰かいるの?」
俺はドアの向こうにいる何かに問いかけた。
トン……トン……
ノックが返ってくるだけであった。
「ごめん。俺もトイレに行きたいんだけど」
トン……トン……
中にいるのは誰だ? これがリーダーの山本さんだったら物凄く気まずい。というかチームの紅一点の鈴木さんだったら更に気まずい。家に連れ込んだとバレたら殺されるに決まっている。
とりあえず中に誰がいるのかを確認しなければ俺の社会人生活が終わる。そして俺の膀胱も終わる。
ベッドに置いてあるスマホを確認しグループチャットを見てみる。そこには飲みの写真などが貼られていた。
21時09分――俺の鼻に焼き鳥が刺さっていた写真が貼られていた。
待て。これは俺が自分でやったのか? それとも悪戯で誰かにやられたのか? どちらにしろその写真をここに貼るのは止めて欲しいんだが。送り主は田中となっていた。
よし。これは週明けにでも問いただしておこう。そして確認をしていると。
23時34分――皆からの「また行きましょう」や「お疲れさまでした!」など挨拶が打ち込まれていた。
あれ……全員メッセージを打ち込んでいるな。俺も酔いながらも「また今度!」って送信しているから職場の人達とは別れたみたいだな。
――じゃあトイレの中にいるのは誰だ?
「まさか、幽霊とかじゃないよね」
今まで幽霊の存在などは信じたことがない。というより見たことや感じた事がなかった。むしろこれはまだ酔っていると信じたい状況ですらある。
俺はトイレのドアに耳を当ててみた。
「オオ……ア……エ……」
この世の物とは思えない声がかすかに聞えてきた。
その声を聞いた瞬間。俺は後ろに仰け反った。
――マジかよ。本当に幽霊なのか?
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