寒波

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「何だ、来ると分かっていたんじゃないか。」 青島の言葉に、未来は気まずそうだ。 「もしかして、ひとり鍋のつもりだったのか?」 その表情から察した青島が聞くと未来は、はい、と苦笑いを浮かべた。 「ひとり分だとすかすかだったけど、宏さんの分を足したらきれいに盛り付けられました。」 そう言って未来は、IHのボタンを押した。 鍋が沸騰するのを待ちながら、夜のニュース番組を見ていると、最強寒波へ備えるよう、お天気キャスターがしきりに訴えている。 「16時には、明日の計画運休が決まったからな。 予報通り夜の間に積もりそうだし、正しい判断だったかもな。」 年に数回、積もるか積もらないかの雪の日に、わくわくしていたのは何歳(いくつ)くらいまでだったっけ、とニュースを見ながら未来は思った。 そうしている間に、鍋はふつふつと湯気立ってきて、辛味を感じる匂いが漂ってきた。 「家で鍋をするのは初めてですね。キムチ鍋ですけど、お酒は飲みますか?」 未来に聞かれた青島は、テレビに向けていた顔を上げた。 「ビールを貰おうか。」 はーい、と返事をして未来は缶ビールとグラスを二つ、小さなトレイに載せた。 「私も一杯だけ、頂こうかな。」 「珍しいな。ビールは殆ど飲まないだろう?」 「辛い鍋と合いそうだと思って。とりあえず半分だけ。」 青島は言われた通りに、未来のグラスにビールを半分注いでから、乾杯をした。 飲み慣れていない未来は、苦味と炭酸の刺激に顔をしかめる。 「二人だからビールも飲んでみようかなと思ったけど、やっぱり無理みたい。」 「ビールだけじゃない。俺がいない所では、酒は飲まなくていい。」 聞き覚えのある台詞に、未来はふふっと笑った。 「心配性ですね。もう一気飲みなんてしないから大丈夫ですよ。」 呑水に取り分けて、青島の前に置くと、目が合った。 「ひとり鍋をするような女に惚れたんだ。心配性にもなる。」 未来は呆れた様子で、青島を見た。 「今どき、おひとり様なんてありふれてますよ。流行を作る側の仕事をしている人の言葉とも思えない。」 「仕事とお前のことは、全く別物だ。」 はいはい、と未来は笑って食べ始めた。 その日の夜、未来はなかなか寝付けなかった。 風の音で、古い家がカタカタと音を立てる度に、隣の青島を見たが、珍しくよく寝ていた。 そんな青島の寝息を聞きながら、ザッハトルテはどのタイミングで渡せばいいのかな、なとと考えているうちに何も分からなくなっていた。
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