寒波

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「未来は、もっと自分に自信持ちなよ。謙虚さも行き過ぎると相手を信じてないことになっちゃうよ。」 「謙虚なつもりはないんだけどな。自信がないのは認めるけど。」 「とにかく、社長が未来のこと大切に思っているのは、私から見ても分かるんだから、未来が信じてあげないと社長もかわいそうだよ。」 「そうだよね。何だかこんなのばっかりだな。」 話しながら歩いているうちに、目当てのバレンタインコーナーに着いた。 平日にも関わらず、売り場はごった返しているが、手作りコーナーはまばらだった。 二人はメモを見ながら、それぞれ必要な物をカゴに入れていく。 そして、どんよりとした冬の空の下を、同じ時間をかけて家に帰って来た。 「お腹空いちゃったね。昨日作ったキーマカレーがあるんだけど食べる?」 未来が言うと、綾香は目を輝かせてうんうんと2回頷いた。 トマトがたっぷり入った少し甘酸っぱいキーマカレーを、未来と綾香は炬燵で向かい合って食べた。 「綾香。今更だけど、上の部屋ってどんな造りになってるの?泊まる時は王くんどうしてるの?」 未来の突然の質問に、綾香はむせて咳き込んでいる。 「やだ。本当に今更だよ。未来は知っているんだと思ってた。」 「知らない。上に行ったことないもん。」 「そうだったんだ。基本的な造りは1階と一緒だよ。今はシェアハウスのように使ってる。事務所の上が王くんの部屋で、未来の寝室の上辺りが慎くんの部屋になってて、それぞれ鍵が付いてる。」 へー、と言っただけで、未来はそれ以上の言葉が出てこない。 「未来。夜はどうしてるんだろうって思ったでしょ?」 「えっ?いや、まあ。」 まるでクイズの答えがわかったかのようなドヤ顔の綾香に聞かれて、未来の方が照れてしまう。 「王くんとは生活リズムが違うから、殆ど顔を合わすことないんだ。慎くんも真面目でしょ。学生さんの手前ケジメはつけてるし、部屋ではさすがに。」 未来は胸を撫で下ろしながら、綾香に謝った。 「ごめんね。余計なお世話だった。」 「全然。」 と綾香は全く気にする様子なく言った後、上目遣いで未来を見た。 「こんなこと聞いたら、また未来が不安になるかもしれないけど、社長って経験豊富そうじゃない?やっぱり上手?」 思いがけない綾香の質問に、未来は驚いて顔を赤くした。 「何⁉︎突然。」 「だって気になるじゃん。素敵な大人ですって感じのああいう(ひと)ってどうなんだろうって。同年代の男の人とは違う気がする。」 「それは、人それぞれでしょ。だいたい比較する程、私に経験がないもの。」 ふーん、と綾香は不満そうに未来を見ている。
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