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執行人が、ギロチンの縄を切る為の斧を持ってやってきた。巨体を揺らしながら、ゆっくりとフラン様の元へと近寄る。
私は、身を乗り出した。
何度も名を呼び、今さらになって想いを伝えたが、民衆たちの歓声にかき消されてしまう。
それでも諦める事無く、叫び続ける。
その時、フラン様の瞳が開いた。
何度も私を優しく見つめて下さった、菫色の瞳がこちらを向く。
そして……、微笑んだ。
今から殺されるというのに、私をじっと見つめ、笑っていた。
瞳を潤ませ、
頬を赤らめ、
口元を緩めて、
まるで恋慕うような、乙女の表情で。
今から殺される者が浮かべるとは思えない、美しさで微笑む。
この場にそぐわぬ表情を向けられ、時間が止まったかのように感じた。群衆たちの叫び声が消え、あなたと二人でいるかのような錯覚に陥る。
儚くも、微かに妖艶さを含んだ美しい微笑みに、まるで本能の奥を撫でられているかのように心臓が激しく脈打ち、全身に高揚した熱がまわった。
(どうして……? どうしてこの状況で笑えるのですか……。それほどまで美しく……)
次の瞬間、フラン様の頭が消え、周囲から耳を塞ぎたくなるような歓声が響き渡った。
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