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 だらだらと鼻血を流しながら保が呟く。平机の上に置いてあったティッシュを数枚取って、峰山は保の鼻にあててくれる。その手が優しかった。保の鼻血はなかなか止まらず、峰山に上を向くように言われる。つん、と鉄の錆びたような匂いが鼻に充満した。情けない。これではステレオタイプの男みたいじゃないかと沈黙していると、峰山の手が背中を撫でた。 「保にも可愛いところがあるじゃないか」  苦笑しながら峰山が言う。保はそれをキッと睨んでいた。突然の出血に体も驚いてしまったのか、脚の間の熱はとうに冷めきっている。そのまま上を向いていると峰山が服を着る布ずれの音が耳に入ってきて、なんともいえない心地になる。 「さぁ。俺は稽古があるから先に行くよ。鼻血が止まったら自分の部屋におかえり」  そのまま振り向くことなく部屋を後にした峰山をくらくらする視界の隅で確認して、保は畳の上に突っ伏した。しばらくは止まりそうにない。  男同士でも普通に気持ちよかった。そのことが衝撃的で保の頭をごおんと揺さぶる。役に入り込めばいいと峰山は言っていたが、あれは保そのものだった。女性とは何度かお付き合いをして体を重ね合ったことがあるが、鼻血が出るほど興奮したことは一度もない。峰山が現れてから自分でも知らなかった己の一面と向き合うようになった気がして、胸がこそばゆい。いつのまにか窓を叩いていた雨が上がっていた。窓の外には雲の流れる穏やかな雨上がりの空が広がっていた。
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