大衆演劇というもの

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 オーナーから聞いた話だが、峰山の所属する旅一座『劇団うるは』は大衆演劇と呼ばれる時代劇を主に演じる団体の中で一、二を争う人気劇団らしい。観客の多くが四十代から六十代が多い大衆演劇だが、劇団うるはは二十代から三十代の若い女性に圧倒的に支持されており、役者ごとの親衛隊ができる始末だという。一番人気は花形の峰山で、親衛隊の人数は百人を超えると言われている。地方公演にも脚繁く通うファンを見ていると単純にすごいなと感じる。ここ保の地元の宴会場は町一番の広さを誇るが小規模で、収容人数は二百人にも満たない。会場としては最も狭いレベルだ。それにも関わらず満員御礼となったのは劇団うるはが初めてだった。たびたびこの宴会場は演歌歌手やマジシャンの一芸披露の場所になっていたが、そのときは客が百人いたかどうかだ。普段とは客入りの違う宴会場を見て、オーナーはにんまりと笑っている。旅一座が一定期間泊まることもあり、観客の宿泊は断っているのだが旅館自慢の温泉には浸かることができる。といっても、ファンの多くは女性のため役者たちと顔を合わせることもない。しかし、過激なファンがいることも事実で他の劇団ではストーカーまがいの行動をしてくる悪質なファンもいるという。
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