大衆演劇というもの

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「お疲れ様」  楽屋で羽織に着替える峰山を見ながらそう呟く。あっというまの一時間だった。今も重吾と乙一の姿が頭の中で浮かび上がるほどに舞台に見入っていた。 「明日は休みだからな。はやく風呂に浸かって休まないとな」  そう言うと、ほらと片手に何かを置いてきた。桜色の丸みを帯びたそれをまじまじと見つめる。 「物欲しそうにしてただろ。それ。今日開けたばっかだからすぐ食えば問題ないだろう」 「あ、ありがとう」  舞台で実際に使われた桜餅をズボンに入れる。着物を整えていると、花房に声をかけられた。 「どうだった? ちょっと後半は妖怪じみてたけど、大丈夫だったかな」  物語を書くのは座長の仕事だと峰山から聞いていたので、率直に感想を述べる。 「面白かったです。終わり方がすごくスッキリしてました」  よかったとはにかみながら花房が頭をかく。汗でじんわりと濡れた肌着が妙に色気を出しているのでそっと目をそらす。 「保ー。こっちを頼む」  はい、と返事をして峰山の元へ向かう。いつのまにか、朝の気まずい気持ちは薄れていた。芝居を見て頭がそれでいっぱいだったからかもしれない。化粧を拭って素顔になった峰山と対面する。その横顔は凛としていていつ見ても綺麗だと保は思った。
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