別れの朝

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別れの朝

 それから三ヶ月の月日が経った。保は峰山の身の回りの世話をしながら、ここ三ヶ月の出来事に思いを馳せる。この人とも今日でお別れか。しみじみとそんなことを考えながらいつものように朝風呂に浸かっていると、タイミングよく峰山が現れた。 「おはよう保」  この女体のような体も見慣れたものだ。それを見て恥ずかしがることもなくなった。あの日、体をいじられたあとは何もされていない。役作りのためだと言っていたから、もう保のことは用済みなのだろうと思っていた。 「今日の昼にここを発つよ」  二人きりの浴室の中で峰山が言葉を発した。それを静かに受け止める。 「長いようで短かったすね」  気づけば、初めて出会った頃と同じように話せる自分がいた。ちゃぷん、と湯船が揺れて峰山が体を沈める。その顔がいつもと少し違った。 「寂しくなるな。この風呂とおさらばなんて」  そっちかよ、と保は肩を落とす。てっきり、俺との別れを寂しがってくれるんじゃないかと期待していた。 「一年は十二ヶ月あるだろう。そのうちの三ヶ月ずつ、俺たちは全国を回るんだ。だから次に会うのは来年になる」  自身の腕をさすりながら峰山が呟いた。そうっすか、と答えるとすいすいとこちらに近づいてくる。 「三ヶ月間楽しかったよ。おまえのおかげだ」  ぺしっと頭をタオルではたかれる。水滴が顔に当たった。 「悪戯しちまうこともあったが、許してくれよ」  あの日のことを言っているのだろう。保は首を振った。 「気にしてない。役作りのためになったなら別にいい」
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