別れの朝

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 すぐさま服を着て髪も乾かさず大風呂を後にする。玄関まで走っていった。書き置きを残していったということは、もう話す機会がないということ。きっと昼に発つというのは嘘だ。  今ならまだ間に合うだろうか。そんな思いで下駄を突っ掛けながら外に出る。見れば、マイクロバスが発車するところだった。電光版には、「劇団うるは」と書いてある。窓がスモークガラスになっているため、中を見ることはできない。それでも、保は手を振った。ゆっくりとバスが発進していく。両手で大きく手を振りながら、峰山のことを思った。    バスの姿が見えなくなるまで見つめていると、いつのまにか後ろに立っていたオーナーに頭をわしゃわしゃとかかれる。 「保。朝飯の時間だぞ」 「オーナー……」  涙で歪む視界を拭いて、朝食の準備をするために食堂へ向かう。配膳をしていると、たまたま目があった田代がぎょっとしてその手を止めた。涙で赤くなった目元を見たのだろう。保はへらりと笑った。田代は何も言わずに小皿を置いてくれた。  一日の業務を終え自室に戻る。大切に折りたたんでおいた峰山からの書き置きを机の上に置いた。裏面を確認してすぐさま自分のスマホに電話番号と名前を登録する。  保にとって峰山は兄のような存在になっていた。過激な悪戯をされたものの、大きな舞台に堂々と立つ峰山を見て憧れと尊敬の念を抱いた。父親と二人で暮らしていた頃と似ていた。保が何か言えば冗談めかしく父が笑って返事をする。そんななんでもない日常を思い出していた。
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