男子大学生の日常

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男子大学生の日常

「保ー。お座敷の座布団揃えてくれ」 「はい」  オーナーの注文通りに仕事をこなす日々は、退屈だが同時にやりがいも感じていた。保の働いている旅館は五十年続く老舗旅館で、主な客は観光に来た外国人や老夫婦ばかりだった。ちょうど宿の閑散期とかぶっているということもあり、旅館の中は静けさに満ちている。日帰りで温泉に浸かっていく客はいるものの、その数も繁盛期に比べれば少ない。地元の客が家の風呂の代わりにやって来るというような状態だった。 「保! レポートの締め切り明日だってさ。終わった?」  地元唯一の私立大学のカフェの一角で、保はちゅうちゅうと吸っていたアイスコーヒーから口を離す。 「昨日徹夜で終わらせた。おまえまだ終わってねえの?」  対面に座る同じ学科の羽染大輝(はそめたいき)がげっとした顔をしながら学食のカフェで売っているスコーンを頬張る。 「難しくてさー、わけわかんなくて一文字も打ててない。だからさ参考にしたいから保のレポート見せてよ」  にかっと大きな口を開けて笑う大輝を横目で見て、ふぅとため息をつく。大学に入学した頃からのこの友人は焦りや危機感などを全く持たないおちゃらけくんで、たびたび保のほうが振り回されていた。  韓国アイドルに憧れているらしい大輝は前髪をセンター分けにしてスプレーできっちり固定している。常に前髪を梳くコームを持ち歩いていて、まるで女子かと突っ込みたくなる。服にあまり興味のない保と違って、どこぞのブランドの服だとか韓国の通販サイトで買った服だとかをよく着ている。ここら辺でそういった派手な格好をしている人間は少ないため、たとえ遠目で見ても大輝だとわかる。
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