春過ぎて

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「もしもし」 「お、保。夜遅くに悪いな」 「な、なんですか」  んー、と言葉に詰まりながら峰山が電話越しに笑うのが聞こえてきた。 「なにかなきゃおまえに電話しちゃダメか?」 「別に構わないけど」  ふっと軽い笑い声のあとに、咳払いをするように峰山が喉を震わせる。 「今もさ、男色の芝居をしてるんだけど最近ちょっと不調でさ。役に慣れきっちゃって、新鮮味がないって花房に怒られたんだ」 「それは……大変なんだな」 「だからさ、保の力を貸してくれよ」  へ? と息を飲んでいると、保と甘く名前を呼ばれる。 「電話越しに聞いててくれないか? 俺のするところ」 「っば、馬鹿言うなよ。俺にはそんな趣味ない」  とんでもないお願いに布団に沈んでいた体が飛び跳ねる。脈拍の上がる胸を抑えて、ぶんぶんと首を振った。 「保は聞いてるだけでいいんだ。無茶なお願いじゃないだろう?」  ごそごそと服の擦れるような音がスマホ越しに聞こえてきた。嘘、ほんとにするっていうのか!? 「き、聞いてるだけでいいのか?」 「保がしたかったら一緒にしてもいいけど」  何もかも見透かしたような声で峰山が言う。首筋がぞくりとして、布団の上に寝転んだ。横向きになって枕の上にスマホを置く。この時間ならオーナーはぐっすり寝ているはずだと確信して、峰山の電話を聞くことにした。
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