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「保、会いたかったか?」
「え、えっと……」
二人きりの会話ならまだしも、すぐそばには茜がいる。目を泳がせて返事をなぁなぁにした。
「なんだ。尻尾を振って嬉しがると思ったのに」
茜はそんな二人の会話を目の前にしても眉一つ動かさない。静かに手を動かして峰山の肩や背中をマッサージしている。
「京都のほうの土産だ。オーナーと食べてくれ」
「……ありがとう」
手のひらにぽんと渡されたのは有名な八つ橋店の袋だった。八つ橋なんて食べたことのない保は内心飛び上がるほど嬉しかったが、茜という第三者がいるので素直にそれを伝えることができない。嫌な沈黙が流れる。
「茜、もういい。花房のもとへ行って手伝いに行きな」
はい、と凛とした声で返事をすると茜は部屋から出ていった。それをほっとして見ていたのがばれたのか、峰山がおでこを指先で弾いてくる。
「いたっ」
「これでいいだろう? この一年にあったことを聞かせてくれ」
峰山の気遣いに感謝しながら、大学のことや旅館のこと、初めてできた女友達のことを話した。相槌を打ちながら聞いてくれるのが嬉しくて、つい身を乗り出してしまう。
「へぇ、じゃあその子とはうまくいってるんだ」
やけに粘つく声音で峰山が聞いてくるのを不思議に思いながら素直に頷く。
「ときどき遊びに行く仲だよ。気を張らなくていい友達だから。それにすごく美人で、雰囲気がちょっと峰山さんに似てるかも」
保の最後の言葉を聞いて満足したのか峰山はにやりと笑う。
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