梅雨のはじめ

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「よかった保」 「うん……峰山さんはどうなの? さっきの茜っていう子とうまくいってる?」  すると峰山は少し困ったように眉を下げた。 「あいつ親離れできてない雛みたいなところがあるから、いつも後ろをひっついてきて対応に困ってる。憧れの役者が俺というのもあってか、他の団員とはほとんど話もしない」  まぁ悪いやつではないんだけど、と断りを入れて額に手をやった。 「高校を卒業したばかりだから、まだ十八だし。ジェネレーションギャップを感じることが多い。酒を飲んで解すこともできないしな」  新しい悩みの種のようだ。一人の若い少年に振り回される峰山を見て、くすりと笑ってしまう。それをしっかり見ていた峰山に首を締め付けられた。ああ、懐かしいなこの感じ。そんな気持ちでいると、襖の隙間から覗く大きな瞳と目があった。 「うっ、わっ!」  峰山の腕の中で飛び起きると、保の後頭部が峰山の顎を直撃した。 「保の馬鹿野郎」  じりじりと痛む顎をさすっている。ごめんと謝るが、保はそれどころではない。襖を開けて茜が入ってきたのだから。 「幸太郎さん。何してるんですか」  まだ幼い少年のような顔立ちをしているが、ひょろりとした背の高さは峰山よりもあるだろうか。真上から注ぐ厳しい視線に自然と保は見上げる形になる。垂れ目の瞳と目が合うと、ぎろりと睨まれた。相性が悪いと初対面で感じさせるのは彼が初めてだった。空気も怪しくなってきたのでそろそろお暇しようと腰を上げると、その腕を茜に掴まれた。びくっと肩を揺らす。 「そんなに気遣わなくていいですよ。幸太郎さんは僕のものだから。たまには別の人と絡むのを見るのも一興というものです」
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