茜という存在

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 ふうっと大きなため息をついて峰山は茜を見つめる。こいつがやってきてからというものプライベートの時間がない。日々舞台をこなしている分、自由時間がなによりも大切なのだ。それを口酸っぱく伝えているつもりなのだが、この少年はいっこうに納得してくれない。そんなに頭が堅かったらいつか潰れるぞ、なんてことも言うのだが本人は全く気にしていないようだった。  せっかく保に会えたのに、まだほんの少ししか話していない。保は峰山にとって唯一心を開いた友であり、弟のような存在だった。たまに悪戯をしてしまうこともあるが、それは男同士なら当たり前のこと。それに保も本気で嫌がっているわけではないから、いいだろうと思っていた。保の前に出ると、大人として、役者としての立ち振る舞いをいっときでも忘れられる。花形の重圧からも逃れられる。心が穏やかになるのだ。はやく保充電をチャージしたいと思いながら風呂から出る。間髪いれずに茜もついてきた。 「幸太郎さん。髪の毛乾かします」  断っても無理矢理してくるので、もう峰山は抵抗するのを諦めている。そんな峰山を茜は嬉しそうに世話するのだから、よくわからない。峰山は茜という人間がまだ理解できないでいた。
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