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「……」
ぼんやりとした視界に揺さぶられて目が覚めた。保を覗く二つの目が動いている。
「おはようさん。昨日はよく眠れたかい?」
黒髪が靡いた。窓から流れてきた新鮮な朝の空気を吸い込む。
「な、なんで俺の部屋に……」
布団に横になってまじまじとこちらを見つめている峰山を見て、保は布団をかぶった。なぜかぶったのかはわからない。たぶん、寝起きのぼさぼさの髪を見られたくなかったのだと思う。
「早起きして暇だったからおまえの寝顔を覗きにきた」
茜はまだ寝てるしな、と機嫌が良さそうに呟く峰山を見てこの人はなんて自由なんだろうと保は思う。
「勝手に俺の部屋に入らないでください」
昨夜のこともだんだんと思い出してきて、顔に熱が集まる。寝ぼけていたのもあったが自分から峰山に迫るなんて、と少しばかり後悔する。
「俺と保の仲だろう?」
意地悪い声が布団の向こうから聞こえてきた。ぺろんと毛布を捲られ、ご機嫌な峰山と顔を合わせる。胸元がはだけているからどこに視線をやればいいか迷ってしまう。
「さぁ、起きて。またオーナーにどやされるぞ」
慌てて時計を見るとすでに六時を回っている。普段は余裕を持って六時ぴったりに目を覚ますから、ゆっくりと顔を洗う時間があるのだが今日はないらしい。布団から飛び起きてパジャマから業務服に着替える。峰山には部屋の外で待ってもらった。今更だが、恥ずかしくて顔を真っ直ぐ見られない。
「俺もついてく」
そう言って朝風呂の準備に行く保の後ろをついてくる峰山を追い払うこともできず脱衣所に入る。窓から差し込む朝日に照らされてタイルが光っていた。蛇口を開けてお湯を流し込む。その間峰山は静かに保の動きを見つめていた。
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