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「もうシャワー浴びてもいいか?」  既に裸になった峰山が浴室に響き渡る声で聞いてくる。ほんとうは七時以降でなければ入浴は許可していないのだが、お得意様だし良いだろうと思って返事をする。湯船に半分ほどお湯が溜まったところで保は湯加減を確認する。ちょうどいい熱さだった。 「一番風呂はやっぱりいいな」  去年よりやや鍛えたらしい峰山の裸と対面する。今年も男色ものを演じるとあってか、男らしい体格に変わっていた。昨年の舞台が大盛況だったらしく、花房も自信を持って二作目に挑戦しているのだという。  フェイスタオルで顔を拭きながら、ちらりと保を見てきた。ゆらゆらと揺れる湯気の中に峰山の姿が浮かび上がっている。きめ細やかな白い肌は一部のシミもない。保もシャワーを浴びて湯船に足をつけた。たまには足湯もいいなと思ってばたばだと足を動かしていると、峰山の顔に飛沫が飛んでしまった。 「ご、ごめんっ」  慌てて近寄り謝罪すると、峰山はにやりと口角を上げた。手のひらでばしゃばしゃと湯をかけてくる。子どものように無邪気な笑顔で。 「うわっ、ちょっと!」  せっかく溜めたお湯がタイルに流れていくのを見て峰山の両手を必死で掴んだ。 「ダメです。これ以上は」  貴重なお湯を無駄にすることができずに必死で訴えると、峰山は悪かったなと小さくこぼした。その顔は全く反省しているようには見えない。 「保。こっちに」  ひらひらと手で招かれる。なんとはなしにその手の方へ向かう。峰山の隣に体育座りで座ると、肩に手を回された。ぐっと峰山の方へ寄せられる。胸がとくんと震えた。
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