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 そのままぐりぐりと後頭部に頬を擦り付けられる。 「やっぱり()いやつだなぁ」  男に可愛らしいと言われても素直に納得できない。髪に伝う水滴が湯船に落ちていく。その音だけが静かな浴室に響いた。この空気が保は嫌いではない。むしろ好きだった。父親のような、兄のような峰山のそばにいるとひどく体が安心して力が抜けてしまうのだ。たびたびちょっかいや悪戯されることがあっても許せてしまう。それが不思議でたまらなかった。 「やっぱりおまえといると落ち着く」  ぽんぽんと肩を叩かれて保は肩をすくめた。居心地がいいと思ってもらえるなら悪い気はしない。 「保、またおまえの部屋に行ってもいいか?」  今度は悪戯しないからと付け加えて甘い声で囁かれる。この男の言葉には魔力があるようだと保は思う。うんと頷いてしまう。ほんとうは悪戯されるのも嫌いではないけれど、なんだか自分が求めるのは少し意味合いが違ってくるような気がして躊躇われる。峰山が迫ってくるのは兄弟のようにちょっかいを出しているだけで、特に下半身の事情なんて男同士なら軽いトピックにすぎないのだ。 「トランプやUNOなんかもある。それとも、囲碁や将棋のほうがいいか?」  どれも一度もやったことのない遊びで保は笑って首を振った。 「したことないからわからない」  峰山はそうなのかと頷くと「じゃあ俺が教えてやる」と髪の毛を撫でてきた。その手が大きくてごつごつとしていて気持ちよくて、その手に寄り添うように頭を傾けた。そうしていると、突然浴室のドアが開いたのでぱっと峰山が保の体から手を離した。それを少し寂しく思いながら保は風呂から上がる。入ってきたのは茜だった。手足が長いシルエットですぐにわかる。ドアの横を過ぎ去る瞬間、茜はぶつぶつと何かを呟いていた気がするが小さくて聞こえなかった。
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