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「僕はいつだって幸太郎さんのためを思って動いてる。外野の君にとやかく言われる筋合いはない。それに知ってる? 幸太郎さんは僕にもお手付きしてるんだよ。酔っ払ったときだけどね。君だけが特別じゃないから、そこのところ勘違いしない方がいいよ」
言いたいことは全て言い切ったと言わんばかりの満足げな顔で茜は部屋に戻っていく。その後ろ姿を呆然としながら眺めていた。
茜にもしてるんだ……なんだ、俺にだけしてるんじゃないのか。
なぜかそこの言葉に引っかかりどんよりと気分が重くなる。オーナーが帰ってきてフロントを交代してからも気持ちは晴れなかった。別に自分が特別だと勘違いしていたわけではないが、寂しさが胸を覆う。
約束通り夜更けに峰山が保の部屋にやってきた。手にはトランプを携えている。保の気持ちなど知らない峰山はいつものようにあぐらをかいて布団の上に座り込んだ。時刻は午後十時。窓から流れる夜の空気が二人を包む。
「さぁ、最初はババ抜きだ。ルールは簡単だ」
丁寧に説明してくれる峰山の声が遠い。保はぼんやりとしながらそれを聞いていた。もやもやとした膜が心を覆っているようだった。体の芯が底冷えしていく。
「……保。茜に何か言われたのか?」
黙々とババ抜きをしていた保に峰山が聞く。保はふっと笑いが込み上げてきた。
「別に。なんでもない。次、峰山さんの番だよ」
トランプを広げて峰山がカードを取るのを待つ。すると一瞬眉を顰めたかと思えば、峰山は持っていたトランプを床に落とした。その手で保のトランプを全てもぎ取る。
「何するんだよっ」
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