勇者の苦悩

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勇者の苦悩

 その昔。  黒炎の邪神を退けし一人の英雄を人々は崇めた。  英雄の名は、マルク。  世界を覆う暗澹たる闇から人々を解放した彼の偉業は、神すらも認めるものだった。    そして神は彼の功績に対して、ある報酬を与える。  一つは〝閃耀(せんよう)の勇者〟の称号。  闇を払い、世界に一筋の光を齎したことに由来する。  さらにもう一つは血筋と才幹の保存。  闘いにおいて類まれなる才覚を持った彼の能力を後世に継承し、いつか訪れるであろう邪神の再来に備えてのものだった。  それにより彼の一族の男子は、代々その名を踏襲することとなる。  英雄の死から1000年の時が経った今、邪神の復活により世界は再び混沌に包まれる。  人々は勇者の再臨を心から待ちわびた。  邪神軍の侵攻による多大な犠牲を払いながら、それでも愚直に待ち続けた。  そして、遂にその時は訪れる。  かつての英雄と同等の能力を持ち合わせた一人の男子が誕生した。  男子は幼少期より頭角を現し、英雄・マルクの名に恥じない才覚を周囲に示す。  彼の能力に確信を持った聖都ギンスバーフの国王・フリードは、彼の16歳の誕生日を機に邪神討伐へ向かう旨の勅令を下した。  邪神に打ち勝ち、始祖の英雄のように人々を絶望の深淵から救い出せば、王から〝閃耀の勇者〟の称号を正式に与えられる。  自身の父すらも遂に得られなかった誇り高き勇者の称号を手に入れるため、彼は意気揚々と生まれ育った故郷を旅立つ。  王をして、『1000年に一度の逸材』と評された彼であれば、邪神を除き称号を手に入れ、100年、1000年と語り継がれる伝説になり得るだろう。
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