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……と、思っていた時代が俺にもありました。
何を隠そう、こうして今自室の寝床で腐っている俺こそ、かつて『1000年に一度の逸材』と持て囃された勇者・マルクだ。
いや、途中まではスゲェ順調だったんだよ、マジで。
ターニングポイントは1年半前だ。
邪神・ドーマーの片腕と目される邪竜・バルツェロとの戦いで、ヤツが最期に放った呪詛により俺は1年もの間、寝たきりになってしまった。
半年前にようやく呪いの効果が薄れ、こうして日常生活が送れるまでには回復したが、やはり1年のブランクは大きい。
ベテラン剣士10人が束になって掛かってこられても負けなかった、かつてのフィジカルは影を潜めた。
それに加え、最強の魔導師、マスター・ソーサラーとタメを張れるほど満ち溢れていた魔力も、呪詛の影響でピーク時の10分の1まで減退する始末。
まぁ要するに勇者・マルク。
絶賛スランプ中だ。
そして、更にやるせないことがある。
それは次なる勇者の出現だ。
というのも、勇者の俺がこの体たらくとは言え、国家としては国民の安心のために何かしらのポーズを取らなければならないわけで……。
苦肉の策として、王は俺の一族の中から仮の勇者を採用し、〝暫定勇者パーティー〟なる組織を結成させ、邪神城へ差し向けた。
血統的にかなり勇者一族としての血は薄いらしいのだが、厄介なことにコイツらが存外にイイ仕事をしやがる。
人々の間にも、『もうコイツらが邪神倒してくれるんじゃね?』といった空気が流れているらしく、最早俺の出る幕が残されているかは甚だ疑問である。
こんな状況でやる気を出せと言われても、土台ムリな話だ。
気付けば、こうして寝腐っている時間も日に日に増えていった。
それでも一応、リハビリ兼ねての鍛錬は欠かしてはいないが。
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