勇者の苦悩

2/5
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
 ……と、思っていた時代が俺にもありました。  何を隠そう、こうして今自室の寝床で腐っている俺こそ、かつて『1000年に一度の逸材』と持て囃された勇者・マルクだ。    いや、途中まではスゲェ順調だったんだよ、マジで。  ターニングポイントは1年半前だ。  邪神・ドーマーの片腕と目される邪竜・バルツェロとの戦いで、ヤツが最期に放った呪詛により俺は1年もの間、寝たきりになってしまった。  半年前にようやく呪いの効果が薄れ、こうして日常生活が送れるまでには回復したが、やはり1年のブランクは大きい。  ベテラン剣士10人が束になって掛かってこられても負けなかった、かつてのフィジカルは影を潜めた。  それに加え、最強の魔導師、マスター・ソーサラーとタメを張れるほど満ち溢れていた魔力も、呪詛の影響でピーク時の10分の1まで減退する始末。  まぁ要するに勇者・マルク。  絶賛スランプ中だ。  そして、更にやるせないことがある。  それはの出現だ。  というのも、勇者の俺がこの体たらくとは言え、国家としては国民の安心のために何かしらのポーズを取らなければならないわけで……。  苦肉の策として、王は俺の一族の中から仮の勇者を採用し、〝暫定勇者パーティー〟なる組織を結成させ、邪神城へ差し向けた。  血統的にかなり勇者一族としての血は薄いらしいのだが、厄介なことにコイツらが存外にイイ仕事をしやがる。  人々の間にも、『もうコイツらが邪神倒してくれるんじゃね?』といった空気が流れているらしく、最早俺の出る幕が残されているかは甚だ疑問である。  こんな状況でやる気を出せと言われても、土台ムリな話だ。  気付けば、こうして寝腐っている時間も日に日に増えていった。  それでも一応、リハビリ兼ねての鍛錬は欠かしてはいないが。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!