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話は俺が邪竜との戦いに敗れ、廃人と化した1年半前まで遡る。
俺が倒れてから程なくして、新たに選定された暫定勇者パーティーの手によって、先代のネクロマンサーや多くの死霊たちは退治された。
ここまでは、王や大臣が言っていた通りだ。
だが、この話には続きがある。
先代の側近として重責を担っていたカッセルは再起を図るため、一部の死霊たちを引き連れ、暫定勇者たちの追撃から落ち延びた。
身一つで逃げる中、その道中で一人の男と出会う。
男は、カッセルにある取引を持ちかけた。
それは暫定勇者への対抗策を提示する条件として、あるものを差し出すこと。
不審に思ったカッセルだったが、既に極限まで追い詰められていたため、藁にも縋る思いでその男の申し出に応じたようだ。
「なるほど、な。その対抗策とやらがスコトス・カストリアっつぅわけか……」
カッセルの話は、自然と腑に落ちるものだった。
その男が聖都の人間であれば合点がいく。
問題は、誰が差し向けたか、だ。
リーベルさんの話では、魔神教の一派だと言っていたが……。
万が一、そうであればお袋も無関係ではいられない。
「えぇ、その通り。しかし、飽くまで未完成術式。さすがに勇者であれば、耐性を有しているとは思っていたのですが……」
「そうかい。良かったな。割と効いたみたいで」
「はい。その点については誤算でしたね。確認がてら、試してみた甲斐があったというものです」
カッセルはこれみよがしに、煽るような笑みを浮かべて言う。
「……で、何だよ? 条件ってのは」
「まぁ、そう結論を急がずに。話はまだ序の口。それよりどうです? もし、ここにいる男があなた方に仇をなす存在だとしたら?」
カッセルは、リーベルさんに視線を向ける。
リーベルさんは、逃げるように顔を背けた。
「……いいから話せ。事情を聞かねぇ限り、何とも言えん」
「事情、ですか。その事情とやらが免罪符になるとでも?」
「そうは言ってねぇよ! だけどな。人間ってのは、時々つまらん意地で誰も望んでねぇし得もしない選択をしちまう時があんだよ。全部分かった上でな。なんつうか、そういうのは少し分かっちまうんだよ……」
きっと、俺とリーベルさんとでは種類も次元が違う話だろう。
だが、そんな下らない感情に振り回され、本来救える人間すら救うことができなかった俺には、彼の身辺事情は他人事とは思えなかった。
「本当に厄介な御仁だ。しかし、だからこそ我らにとっても御しやすいというもの」
「……もういいか。話を進めろ」
「待てっ!!」
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