果南子

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果南子

「きゃ~!!ねぇ、ささくらさっきの見た!?中谷くんのナイスシュート!」 ぼーっとしていた私に果南子が目を輝かせ話しかける。週明けはぼんやりしがちだが、今日は一層磨きがかかって、午前中に何の授業を受けたかすら定かではない。 「う、うん」 「何ぼ~っとしてんのよ、さっきの見逃すなんて人生損してる!はぁ~、尊いわぁ!」 怒ったかと思えば恍惚の表情を浮かべ、相変わらず果南子は忙しそうだ。 メジオの芸能人か・・ 頭のなかでそう呟いてみると、不覚にも「ゲイノウジン」という響きが昨日の出来事を思い起こさせた。 あれは確かに中谷くんだった。腕を組んでいた相手は、年上の、がたいのいい男性。三十代くらいだろうか。それにしても、二人はどういう関係なんだろう。アイザワのあの感じから、そういう関係なんだろうけど。 これだけサッカーの才能があって、容姿にも恵まれ、女子にモテて、パッと見なんの非の打ち所もない彼だからこそ。 再び果南子や他の女子たちの「きゃ~!」っという声が響き、私は我に返った。 やっぱり、女子の甲高い声は苦手だ。それが複数になればなるほど、ピアプレッシャーのように思えてしまう。 そういえば、アイザワは。 私は屋上にいる女子たちを見渡した。たぶんここには居ない。 アイザワは私や中谷くんの秘密を知っている。彼女は普段、どんな生活を送っているのだろう。私は果南子に「ごご、ごめんね」と断り、屋上を下った。 目白丘高校は八クラスまである。私は自分のクラスを飛ばし、一組から順に覗いて回った。 しかし、アイザワとおぼしき人物は見当たらなかった。それもそうだ。アイザワはブロンド色のウィッグを被っており隠された左目以外は完璧にメイクを施している。化粧禁止のこの高校で見つけられるわけがなかった。 アイザワという名前も、きっとニックネームだろう。 あれだけ素顔を隠していたのだから、何か人にバレたくない理由でもあるのかもしれない。 そうこうしてるうちに昼休み終了のチャイムが鳴った。 席に着いて自分の腕を見ると、日焼けの跡がくっきりと焼き付けられていた。 日差しが一番強い時期に、ほぼ毎日屋上でサッカー観戦(といっても本人たちはほぼ遊びでやっているだけだが)に付き合わされているのだから、焼けないはずがない。ふと果南子を見ると、バレー部ではなくビーチバレー部かよと突っ込みたくなるような仕上がりだった。アハ体験の如く、徐々にお互いが黒くなっていったのであまり気づかなかったが、出会った時の果南子は色白だったことを思い出した。 中学校時代から果南子を知る結乃によれば、昔は「今は10代も美白を意識する時代だからね!」と言って、体育祭にひとり農作業用の帽子や腕カバーを装備するなどして、先生に呆れられたこともあるらしいが。 しかし、彼女の恋は叶うことがない。 今は見ているだけで満足しているようだが、彼には実は男性のパートナーがいると知ったら彼女はどう思うのだろう。 ぼんやりしていると、英語の先生が「これを誰に読んで貰おうかな~」と見渡している。 私の心臓が激しく脈打った。 くるなくるなくるな・・・ 念が通じたのか、当てられたのは果南子だった。 「・・・えっ!?あの、えっと、何ページですか?」 軽くパニックになっている果南子は、教科書ではなく、英和辞典を捲っている。 中谷くんはなんて罪な男なんだろう。
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