罪と罰

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当たり前のようにそこにあったものが、急になくなってしまった。その事実だけが時間と平行して進み、心と体は『あった』当時に取り残されたまま、それを上手く処理できない脳は甚だ混乱する。 病室のベッドに横たわるは、自分のものとは思えないほど重たい肢体。 空になった腹部を、私は未だ直視することができないでいる。 『私見ちゃったんだ』 『彼女いたんだね笑』 『今更だけど瀬良くんとの子供できたの、過去形だけどね』 『どうせ遊びだったんでしょう?』 『もう終わりにしましょう』 まとまらない感情を打っては消しての繰り返し、結局何も送らないまま、私のメッセージアプリから彼の名前が消えた。 本当のことを直視する勇気がなかった。 きっとバチが当たったんだ、そう思った。 自分の感情のまま突っ走った挙げ句、私は家族を捨てた。愛娘であるはずの愛花も、お腹の子も、大切にすることができなかった。 私は母親どころか、人間としても失格なのかもしれない。 生きてる価値なんて、ないのかもしれない。 ふと顔を体を起こすと、窓辺で、誘うように揺れているカーテンが目に入った。
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