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瞬時に後方を確認した。
夫は寝ている。
いびきなのか、半開きの口から、不規則的にゴオッという音が鳴る。
出会った時はシュッと整っていた顎も、今では二重のそれに形を変え、髪も薄くなった。
年上で、気が利いて仕事もでき、何事もスマートにこなせる姿が魅力的だった彼は、結婚して、愛花が生まれたくらいから、まるで子どものように精神を退行させ、丸々と太っていった。
「うちもまさにそのパターン!愛花ちゃんに構ってばっかりだから、旦那さん、自分にも手を焼いて欲しいのよ。でも、そんなことされたらこっちはもう異性になんか見れないよねぇ。」
そう言っていたママ友の浅井さんは、最近二人目を出産した。
「異性に見れないんじゃなかったんだ。」
そう言ってやりたかったが、おめでたいことなので止めた。
「軽度ですが脳に障害がありますね。」
愛花がそう診断されたのは、浅井さんが第二児を出産して間もない頃だった。
一人遊びが多く、他の子との協調性が見られないと幼稚園の先生から検査を提案され「まさかうちの子が」と軽い気持ちで受けたのだが、そのまさかだった。
確かに愛花は少し落ち着きがなかったり、自分が興味を示した物事への執着は脱帽に値するものだったが、子どもなんてそういうものだと思っていた。
現にその障害の特徴を調べると、他の子どもにも当てはまりそうなことがずらっと出てきた。
なんで愛花が。
夫に相談すると「知能に問題はないんだろ?」とそこだけを確認して、翌日には義母にも伝わっていた。
「愛花ちゃんが可哀想。こんなに可愛いのに、普通じゃないなんて。」
私と二人きりになったとき、義母はそう言った。
「すみません。」
何故私が謝らないといけないのかわからなかったが、謝罪を求められているような気がした。
他の家庭が幸せそうに見えて仕方がなかった。
『私も、怖いくらい幸せだった』
メッセージを返した後、夫のいびきが聞こえないよう布団をかぶり眠りについた。
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