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「げっ、不倫!?やばっ!!」
不意に体が縮こまる。
翌朝、愛花を幼稚園に送り届け、帰ろうとしていたときの出来事だった。
恐る恐る目線をやると園の出入り口でママ友たちが井戸端会議をしている。そのうちの一人、山口さんと目が合った。
意味深な顔で手招きをされる。
良かった。
私じゃなかった。
ほっとしたのも束の間、不倫疑惑のある人物とは、最近二人目を出産し「夫が異性に見れない」と言っていた浅井さんのことだった。
駅から少し離れたところにある歓楽街で、男性と二人で親密そうにしているところを目撃されてしまったらしい。
「ほら、浅井さんとこ二人目生まれたじゃない?あの子供の父親だったらヤバすぎなんですけどぉ~!!!」
「ゲスぅーーー!!」
緒方さんがいかにも笑いを取るような言い方をして、皆が一斉にゲラゲラと品のない笑い方で笑う。更衣室やトイレなど、男子の目がないところでの女子の笑い声は、学生時代からとても苦手だった。でも。
溶け込むように浮かないように、今も私はできるだけ同じように笑おうと努めている。
大丈夫、今私の口角はちゃんと綺麗に上がっている、はず。
「そういや、田中さんところは」
急に名前を出されドキッとした。
「ご主人エリートだから、そういうの心配じゃないの?」
「うちは...どうでしょうね。してたとしても本気じゃなければいいのかなって」
「器広過ぎワロタ」
両腕でWの形を作った緒方さんがまた笑いを取る。
「まぁ、男は浮気する生き物って言うしね。でも私なら絶対許せなかな、離婚!撲殺!」
山口さんがシュッシュッと言いながら軽くボクシングするような素振りを見せ、また皆で笑う。
それのどこが面白いのかわからないまま、私もまた同じようにゲラゲラと笑った。
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