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放課後のファストフート店でポテトを食べながら裕二が秘密を分け合うかのように小さな声で言った。
「お前らって彼女とかいんの?」
通う高校は男子校だった。当然女子の姿はどこにもない。
でもバイトや部活や同中の女の子と仲良くなってそれなりに楽しんでいる奴は多いらしかった。
「いるよ」と太一はケロっとして答えた。
「まじかよ」
「え? どんな子? 可愛い?」
「うーん、可愛いっていうか、綺麗なお姉さん」
「はー? 年上かよ」
「そう、家庭教師の女子大生。めっちゃ美人」
ジュースを飲みながら少しだけ誇らし気な太一は、なるほど年上にもてそうな雰囲気ではある。
猫みたいにキュって上がった目元とか、フワフワの髪型とか、どこか柔らかく人懐っこい感じが可愛く見えるんだろう。
年上のお姉さんによしよしされている姿が目に浮かぶようだ。
「なんだよー卑怯者っ」
「ははは、わりいね」
「もうお前と口きかねえ」
「そういうなってー」
「じゃあ、女子大生のお友達を紹介して」
と、不貞腐れたり現金なことを言い出す裕二は3人の中では一番しっかりものだ。
きりっと涼やかな顔つきに短髪で爽やかなのは、ずっと野球をやってきたからだろう。今もほとんど毎日暗くなるまで練習に励んでいる。
たまの休みはこうやって一緒に出掛けるけれど、だいたいいつも忙しそうにしていて、彼女どころではないのかもしれない。
でも絶対もてると思う。
そして蜜はといえば。
実はまだ恋をしたことがない。
告白は何度かされたことはあるけれど、「好き」という感情がまだわからない。
そういうと二人はものすごく驚いた顔をして「もったいねー!」と叫んだ。
「ええ! なーにー蜜くんってば初恋もまだ?!」
「っていうか、そんな綺麗な顔をしててもったいない。よりどりみどりじゃん」
昔から綺麗な子とは言われてきた。
すっきりと整った顔立ち。サラサラで色素の薄めの髪。スラリとした体つきで王子様然とした雰囲気は女子に大人気だったらしい。自分ではあまりよくわからないけど。
そして何故か一部の男子にも、もてた。
でも「好き」という生々しい感情をぶつけられても困るだけだった。
自分勝手に盛り上がり押しつけられる感情をどうしろというのか。何を求めて赤裸々な気持ちを打ち明けるのか。
蜜にはどうしてもわからなかった。
同じ気持ちを返してあげれない。
断るたびに泣く女の子とそれを責める友達の姿に途方に暮れた。
だからどこか冷めた心の痛みが『恋』というもののイメージになった。
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