教師というひと

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 普段いる教室から離れるととたんに廊下は静かになった。  人気のない教室は同じ学校とは思えないほど空虚に見える。プレートを見上げながら周防の言っていた教務室を探す。  周防の受け持ちは古典だった。  体育かと思っていたのに、まさかの文系でそれもビックリしたことのひとつだ。  でも周防の落ち着いた低い声が古の物語を読み上げるのはとても心地いい。昼ご飯を食べた後ならなおさら、夢と現を行ったり来たりしてしまう。 「あ、ここだ」  預かった鍵を差し込んで中に入り込むと、雑多な空間があった。ここは古典の教材が置かれていたり、時々周防がこもっていたりするらしい。  細く開いたカーテン越しに外の光が差し込んでいる。  細い巻物らしきものはすぐにみつかった。  それを取った瞬間のことだった。 「なにやってんの?」  ふいに背中に声がかかり、ビクリと体がはねた。  悪いことをしているわけじゃないのに、責めるような声色に心臓がバクバクという。 「先生に頼まれて」  答えると「ふうん」と足音が近づいた。  振り返るとそこには白衣の男が立っていた。見たことのない先生だった。多分周防と同じくらいの年齢でまだ若い。背が高くひょろっとしている。どちらかと言えば教師というより研究者と言う風情だった。 「周防先生に?」 「……そうです。持ってきてくれって頼まれて。鍵もあずかっています」  蜜はポケットから鍵を出して見せると、その人はじっと蜜を見つめた。 「一年生?」 「そうです。一年C組の佐藤です」  名乗るとその人は目を大きく開き面白そうな色を浮かべた。 「あれ、もしかしてさとうみつ?」  まさかのフルネームを言われ、蜜は押し黙った。  
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