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結衣が急いでくれたおかげで
最終の自由席に乗ることができた。
俺を窓際に押し込んで、背伸びしながら荷物を棚にあげると
手前の通路側に結衣が座った。
「まあ君、お母さんにメールしたほうがいいんじゃない?最終の新幹線乗れたって。11時半くらいには、山形に着くって。」
「そうだな。」
とスマホを開く。
「お母さんから連絡は?」
「来てない。」
「そっか。」
膝の上に置いた俺の左手の甲の上に、自分の右手を重ねてくる結衣。
心配してくれてる。
「まあ君、メールしたら、少し寝なよ。私起きてるから、スマホに連絡来たら起こしてあげるから。」
「大丈夫」
「大丈夫じゃない。向こうに着いたら忙しいかもしれないし。今のうちに少し寝て?お願い。」
俺の頭を左手でそっと倒し、自分の肩に乗せる結衣。
すっと俺の目から涙が流れて、頬を伝っていくのを感じた。
やっと。
やっと感情が現実に追いついたのか。
どんどん涙が溢れてきた。
俺の頬を伝って結衣の肩に流れる涙に
結衣はずっと気づかないふりをしてくれている。
気づかないわけなんてないのに。
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