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「まあ君、ついたよ。」
結衣の声で目が覚める。
窓の外を見ると
「さくらんぼ東根駅」の看板が見える。
俺、いつの間にか寝てたんだな。
顔を上げると
目尻から頬に向かって伸びた涙の後を
結衣が指でそっと拭いてくれる。
「降りよ?」
と優しい声で。
駅を出て、タクシーに乗る。
久しぶりに見る地元の景色。
今年はお盆にも帰ってこなかったから
正月ぶり。9ヶ月ぶりだ。
「まあ君、私わかんないから、住所。」
俺は運転手に行き先を告げる。
ゆっくり流れ出す窓の景色を眺めていた。
東京とは全然違って
時々見える街灯の灯りや、ポツンとコンビニの灯りが見えるくらいで。
あとは真っ暗。
タクシーはどんどん山道に向かって走っていく。
「この辺りですか?」
「そこの、角の先の街灯の下で大丈夫です。」
タクシーは俺が告げたところで停車して、俺と結衣は降りる。
「まあ君、私このままどっかホテル泊まるよ。お家の人、私のこと知らないだろうし。こんな時に急に来たらびっくりさせちゃうから。」
気を使う結衣。
結衣の言ってることが正論だと、頭ではわかってる。
だけど
「いや。一緒にいろよ。ホテルなんて近所にねえし。とりあえず。」
と素直には言えなかったが
もう少し一緒にいてほしかった。
1人にしないで欲しかった。
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