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それから1週間もしないうちに結衣と子供は一緒に退院することができた。 特にこれといったトラブルもなく。 俺は翌日、疲労困憊で出勤して 昼休みには車の中で、昼寝用のブランケットにくるまって仮眠をして何とかやり過ごした。 退院までは毎日仕事終わりに 病院に結衣と子供に会いに行った。 3人の時間は本当にあっという間で いつも面会時間ギリギリまで一緒にいた。 手続きをしに役所に行ったり 結衣に言われた通り 粉ミルクやオムツを買いに行ったり ギリギリまで性別を聞かなかったせいで 買い揃えることができないでいた当面の新生児用の洋服を何枚か揃えたり。 あっという間だけど、待ち遠しくてたまらない毎日だった。 子供が生まれて最初の土曜日には 森田と塩谷と戸田が結衣のお見舞いに来てくれた。 戸田と塩谷は透明な箱の中に寝かされた子供をしばらくうっとりと眺めて 病院の廊下では また森田が3人の子供を押し付けられてあたふたしていた。 「お前は相変わらず美女に囲まれる人生なんだな。」 なんて子供にもみくちゃにされながら森田が言う。 「美女に囲まれるのか、尻に敷かれるのか。どっちだかな。」 「どっちでも幸せじゃねえかよ。」 「まあ、そうだな。」 「武内、ほんとよかったな。お前が親になる日が来るとはな。」 と突然感慨深そうに言い出す森田。 「それは、お互い様だろうが。」 「お互い奥さんに感謝しなきゃだな、こんなおじさんを拾ってくれて。」 「本当、その通りだな。」 「お前、どうする?娘が将来、俺たちくらい歳の離れた男連れてきたら。」 「それは勘弁だな。まず、男連れてきた時点でぶっ飛ばすかもな。」 「どの口で言ってんだよ。」 「うるせえな。」 そうか。 この子は、いつか俺たちの元を巣立っていく日がくるのか。 そう思うと、まだまだ先の、随分と先の未来を想像して すでに寂しくなっている俺。 「お前の娘の彼氏は大変だ。」 なんて森田が追い討ちをかけてくる。 「うるせえって。」 「そういや、名前は?」 「まだ決まってねえんだ。」 「そっか。決まったら教えろよ。出産祝い、注文しなくちゃいけねえんだから。」 森田の子供が生まれた時に 俺と結衣から送った‘お名前スタンプBOX‘なるものは めちゃくちゃ重宝しているらしく 森田も、俺に子供が生まれたら 同じものを贈ろうと考えていたらしい。 「決まったら教えるよ。ありがとよ、森田。」
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