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窓から月を見上げてみた。
二階の窓は少しだけ月に近い気がして、冷たい夜風が心地良い。
今年の十五夜は、十月までずれ込んでいた。
月を眺めるなんていつぶりだろう。
…………いや、まるで思い出せない。
思い出せないその代わりに、懐かしい笑顔が脳裏をよぎった。隣に座って、仄かに照らされている笑顔が。
それは僕が二度と出逢えない、いとも静謐な微笑みだった。
静かな夜だ。
こんな夜が、前にもあっただろうか。
「月が綺麗だよ」
僕は昔のように小さな声で呟いてみた。
それは月光に溶けて、深い夜に消えた。
どこまでも続いていくような夜だった。
君も向こう側でこの月を見上げているだろうか。
そこには静かな夜があって、言葉を夜に溶かす月光があるのだろうか。
息をついて、僕は窓枠に足をかけた。
「『今ならきっと、手が届くでしょう』」
月を見上げて、僕は飛んだ。
深い夜が、口を開けて僕を待っていた。
『死んでもいいわ』
君は、そう言って笑うだろうか。
またすぐに、君に会えるだろうか。
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