骨 (2)

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「そんな話を聞いたことはあるけど、」 「これもその一環だよ」  それが何か?と言い終わる前に、部長が重ねる。  部長と柳生が言うには、手伝いの中身はこちらが引き受けるかどうかで何でもアリらしい。撮影機材の準備を手伝うこともあれば、映研らしく脚本の感想を求められることもある。人手が足りない時は撮影場所の下見にも行くし、移動のために車を出すこともある。それだけ聞くとかなりのパシリ感が拭えないけれど、それを差し引いても得があるのだ。特にうちの部長にとっては。  かつては友情割りがほとんどだったとはいえ、その報酬は一部のマニアにとっては堪らないらしい。  コンクールにも出しているようなクオリティの隣の映研の撮影は、好きな時に好きなだけ見学が出来る。出入りも自由。そして、その完成品を1番最初に観れる特権がウチのサークルにはあるのだ。 「遙さんにね、直々に頼まれちゃったんだよ」  はい、出ました。うちの部長の穏やかな優男から1番かけ離れている部分が。顔には出ていなかったはずだが、内心クイズ番組の早押しもびっくりの速さでひらめきが駆け巡る。  心霊好きな柳生は置いておいて、部長までこうも乗り気なのは若干謎だったけれど、これなら分かる。というか、分かってしまえば理由はこれしかなかった。 「推しの頼みなんて、この僕が断るわけないだろう!?」  名は体を表すとよく言うけれど、この部長ほどそれが当てはまる人間もいないと俺は常々思っている。古永厚支(ふるながあつし)とは、まさにこの人そのものであると。 「古永部長は遙さんに弱いから〜」  あたしはホラーに弱いけど〜などと、俺には全く笑えないネタで柳生は笑い飛ばす。  隣の映研の役者の1人、瀬戸遙(せとはるか)先輩は部長が推してやまない人物だった。  彼女が高校演劇部の時代から追い続けていると言う部長は、はたから見ればかなり気持ち悪いレベルの筋金入りのオタクだ。そして、本当は隣の大学に入れるどころかそれよりもっと良い大学にだって行けるレベルの頭脳を持っているのに、うちのサークルの特権が欲しいが為に進路を決めたような変人だった。
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