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直視してしまったことで込み上げる吐き気をどうにか押し戻す。
思わず見てしまったが、目なんて合いようがない。仮に合っていたとしても判別しようがないと、慌てて何でもないフリをして目線を逸らす。
ソレがこっちに気が付いたか否かは分からなかった。
「あー?なんか言った?」
「あ、いや、別に」
「ふーん。あ、そろそろ切っていい?」
「いや頼むあと1時間!」
調べ物をする間は、どうしても全く関係ない人間の存在を感じ安心していたかった。
いくらアレは気の所為だ幻覚だと存在を否定しようと、思い込もうとしたところで無意味で、ならばいっそのこと正体を明らかにしたかった。どこの誰でどうしてこうなってるのか訳も分からないままでは存在を否定も肯定もできず、どうにも気味が悪い。
「あのさ、5年前ってこの辺住んでたり来たことあったりする?」
「いや?俺大学から上京組だし」
「だよな」
5年前に起きた事件だった。
当時大学3年の21歳。写真を見る限りは結構正統派で爽やかな好青年だった。こりゃ痴情のもつれも起きかねない顔だなと感心する反面、あんな風にその整った顔すら見るも無惨に殺されてしまうのであれば自分みたいな普通が一番なんだろうな、などと考える。
犯人と見られる女性も、何故かほぼ同日に同じように顔がグチャグチャになった状態で発見されたことから一時期ネットでは奇妙な事件として話題になっていたようだ。
女性側は自死以外に説明がつかない状況だったこと、被害者男性の顔が良かったこと、2人に接点は全くなかったことなどから、有ること無いこと含め思った以上に情報が残っていた。
「つーかさ、さっきから変な音するんだけど。なんかやってる?」
「んー?特には。通信でも不安定なのかな?」
「ノイズとかそういう音じゃないんだよな」
テレビや音楽を掛けても良かったのだが、なんとなく、他の音があるのは嫌だった。
だから部屋の中は無音で、自分がカタカタとキーボードを打つ音か、電話越しの生活音だけが聞こえていた。
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