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「いつも思うんですけど、だから何で隣の大学に行かなかったんすか…」
「だって、あのレベルのサークルに入ったら多分、映研内の仕事に忙しくて遙さんを逐一追えなくなっちゃうだろう?」
あ、聞かなきゃよかった。そういえば、確かこの人がやばすぎたのか何なのか、部員がまるで集まらなかった結果。廃部にならないために俺らの代をかき集めたような人だった。
部長のあまりの返答に、思わず色々と顔に出てしまっていたらしい。「人見くん、顔、顔!やっばいよ〜!」と柳生が部長の後ろで全くやばいとも何とも思っていない様子で茶化す。
「だからね、遙さんのために仕事はしないと」
「あー、はいはい、」
分かりましたよ。そう投げやりに続けようとして、何かが落ちるような音に言葉を遮られる。
遠くのような、近くのような。落ちたような、崩れたような。ガラガラと乾いた音が、夕方の静けさの中、妙に響く。
ぱっと音のした方に顔を向けたが、そこには勿論、何もなかった。ただ、特に手入れもされていない、薄暗い草むらが続いているだけ。
慣れたことに身体は身構えてしまっているのか、ドキドキと心臓の鼓動がやけに大きくなっていく。
「何か音がしたね」
「今の、聴こえてましたか?」
過剰に反応し始める心臓を一旦落ち着けようと、深呼吸を繰り返していると部長が言った。
「なになに?何か聞こえたの?」
一方、柳生は気が付かなかったのか、俺らの反応に首を傾げていた。
嫌な慣れにまさかと思ったけれど、部長にも聴こえているのなら違うかもしれない。柳生は興味のあることしか入ってこないタイプだから、聞こえていなくともあまり不思議ではない。
湿った公園内に、不自然に聴こえた乾いた音。それはまるで、骨の山が崩れたような、なんて。すっかり染み付いてしまった心霊思考に我ながら呆れる。
「こっちの方かな?」
「いや、こっちじゃないすか?」
音がしたのとは微妙に違う方向に歩き出そうとする部長に訂正し、音のした方へと進む。途中、同じように何度も乾いた音が響いたけれど、特に何も見当たらなかった。
部室棟裏の入り口から入って、15分ほどのろのろと歩いていれば、来たこともない公園の奥へと入り込む。そこはもはや手入れがされていないというレベルではなく、公園内かどうか怪しくなるほどには植物は無造作に伸び切っていた。
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