骨 (3)

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「ねえ、2人とも、」  俺が考えをまとめるより先に、柳生に呼び止められる。言われた通り少し離れて着いて来ていた柳生は、気付けばすっかり追いついていた。 「誰か来る」  柳生が来たのとほぼ同時に、つい先程まで立ち込めていた霧はすっかり晴れていた。咄嗟に前へ向き直れば、少し離れた場所にあったはずのソレも、もうどこにも見当たらなかった。  その代わり、ガサガサと草木を掻き分ける音と、ガタガタと何かを運ぶ音。そして人の足音が聞こえていた。 「あれ?こんなところで何してるの?」  現れたのは、1人の女性だった。  年齢は同じくらいか、少し上か。見た目からは年齢があまり読めなかった。色の白い肌に、真っ直ぐに伸びた長く黒い髪。見たことはなかったが、秋田美人とはこんな人のことを言うのだろうか。そう思うくらいに透明感のある美人だった。  どんな人が来るのかと身構えていた俺や柳生は、すっかり気が緩み脱力する。 「そこの大学生?」 「あ、はい。あたしたちは、」 「ええ。僕ら史学科なんですけど、暇つぶしに探索してたら迷ってしまって」  柳生が答えようとして、部長がそれを遮るように受け答える。  部長はそう言ったけれど、俺たちは全員、史学科ではない。そもそも、ウチの大学に史学科なんてものはなかった。史学科があるのは、隣の某有名大学だけだ。 「あら、そうなの。それなら帰り道を教えてあげるね」 「助かります〜!」  部長はなぜ、嘘をついたのだろう。  その後は柳生に対応を任せたのか、部長が話に割って入ることはしなかった。女性に道案内を受ける柳生の後ろで、部長が俺に向かって静かに囁く。 「人見クン、きっとこれがその条件だ」  俺にだけ聞こえる音量で、いつもと特に何も声色は変わらない。だけど不思議と、俺を見る目だけはいつもより真剣だった。 「こういう場所ではね、説明の付かない現象なんかよりもずっと、人間に注意した方がいい」  幽霊なんてのは、本当は大したことないんだ。みんな幽霊を怖がるけれど、本当は生きている人間の方がうんと怖いのさ。そう言って意味ありげに女性を見た後、部長はまた俺へと視線を戻す。それから、黙ったままゆっくりと後ろを振り返った。  部長の視線の先には、女性が運んできた物があった。それは、女性1人でも押せるようなサイズの荷車だった。 「さて、人見クンには、何が見える?」  道に迷った俺たちを案内するために、女性は一旦荷車を脇に置いていた。その際に、上にかけた布が少しズレたのだろう。中に積まれている物が、布の端からほんの少しだけ覗いていた。暗く影になった中で、やけに目立つ白。  それはまるで、あの穴の中にあった、骨の山のようだった。
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