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晴美は達也と結婚して三年目に子宝を授かり、晴也と名付け、喜びに浸ったが、晴也が数えでニ歳の時に達也を交通事故で亡くしてしまった。だが、それは晴美にとって好都合だった。と言うのも当時、不倫していて不倫相手と一緒になる積もりでいたからだ。名を陽介と言って達也の死後、四十九日経って間もなく晴美は仏壇を廃棄処分して荷物を纏め、晴也を連れてそれまで住んでいたアパートから陽介宅に嫁いだ。
晴也は物心ついていない幼い頃だったから最初の内は継父となった陽介に対して違和感を覚えたにせよ、直ぐに慣れ、実父と認識するようになって行った。しかし、晴美は余り晴也を可愛がらない陽介を見るにつけ子煩悩だった達也を思い起こし、時には達也を不憫に思って涙ぐむこともあった。
そうして父親の愛情を充分受けずに晴也が小学三年生になった或る土曜日、晴也を連れて買い物に行った晴美は、息子の異変に気付いて帰宅後、陽介に言った。
「晴也の言葉遣いが急に悪くなったのよ」
「どういう風に?」
「例えば、僕、お腹空いたって今まで言ってたことを俺、腹減ったって言ってみたり、お母さん、これ、可愛いねって今まで言ってたことをおっかあ、これ、可愛くねって言ってみたり、僕、こういうことはいけないと思うんだけどって今まで言ってたことを俺、こういうのいけねえと思うんだがな、なんて調子なの」
「まあ、男の子だからそれくらいはしょうがないんじゃないのか」
「でも、それだと可愛くないから・・・」
「まあ、どうしても流行り言葉とか変かった言葉とか面白い言葉とか聞くと、使いたくなる年頃だからな」
「だからってほっとけって言うの」
「まあ、僕だって、もし娘がいて急に言葉遣いが悪くなったら嫌な気になると思うから晴美の気持ちも分からないでもないけどさ、男と女とではその問題の度合いが違うんであってだね、まあ、男の場合、そう問題にすることじゃないよ」
「それじゃあ男女平等じゃないわ」
「そういう問題じゃないよ」
「そういう問題なの!もう!」
所詮、血の繋がらない子には愛情を注げないんだわと諦めた晴美は、何の善後策も得られず、プンプンしてその場を離れた。
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