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「俺、バカだからさ。どうしたらみんなを笑わせられるのかわかんないんだ。やりたい事のやり方わかんないとか、ほんとバカだよな」
バグ男は本気で悔しそうだった。
「ちょっと待てよ。あれは僕達を笑わせようとしてたのか? だったら、面白いギャグ言うとか……」
「それじゃダメなんだよ。言葉が通じなくても笑わせられなきゃ」
バグ男は真剣な顔で僕に向き直った。
「俺、世界中の人を一人残らず同時に笑わせたいんだ」
「一人残らず、同時に……?」
意味が掴めず聞き返すと、バグ男は大きくうなずいた。
まさか、本当に言葉通りの意味で言っているのか……?
「だって、笑っている時って、ケンカしたり、争ったり、戦ったりできないだろ? みんなを一人残らず同時に笑わせたら、その間だけでもみんな平和になるじゃないか」
バグ男は真剣そのものだった。
「一分でも十秒でも。俺、少しの時間でもいいからそうしたいんだ。ほんのちょっとでも、平和を作りたいんだよ。
でも、どうしたらいいのかわかんない。
俺、もう授業中に迷惑かけるのやめるよ。だから布川君、俺に知恵を貸してくれないか? 布川君は頭がいいから、どうしたら良いのかわかるだろ?」
バグ男は僕の目をまっすぐに見つめて言った。
「そうか……だから言葉を使わないで笑わせようとしてたのか」
僕は正直、打ちのめされていた。
あの奇行の裏にこんな思いがあったなんて。全然知らなかった。気づきもしなかった。
僕の、負けだった。
人間として、僕は完全に負けた気がした。
いや、最初から負けていたのかも知れない。僕は自分のやりたい事すらわからなかったんだから。
でも、今は。
「今日さ。お前が邪魔をした数学の時、連立方程式ってやってただろ?
あれは一つの方程式じゃ解けない問題でも、二つの方程式を使えば解けるって事なんだ。
……だから、僕がもう一つの方程式を立ててやるよ」
僕はわざと何気ない顔で言った。胸を打たれているなんて悟られたくなかった。
「ほんと!? ありがとう! 布川君頭いいからすごく心強いよ!」
いや、成績だけの僕なんかより君の方がよっぽど凄い奴だよ。
僕の胸には、そんな思いとともに、僕のやりたい事がはっきりと生まれていた。
「なら僕は、全世界の空に君の姿を映し出すシステムを発明する。笑わせる方法も、それまでに一緒に研究しよう」
バグ男、いや真伍は、顔いっぱいの笑顔になった。
「ありがとう! 布川く……」
「……あと、僕の事は隆宏でいい。真伍」
真伍の笑顔につられて、僕も笑った。
まずは僕達二人。この笑顔を、世界中一人残らず全員に広げなきゃ。
な、真伍。
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