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バグ男と僕の連立方程式
バグ男がまた奇声をあげた。いつもの事だ。教室は、いつもと同じように冷え切った静寂に包まれた。
また始まった。
僕はうんざりして溜息をついた。
大好きな数学の授業中。僕は黒板の前で難解な文章問題から連立方程式を立てようとしていた。
まさにその時だった。
逢澤真伍。それがバグ男の本名だ。僕はバグ男が心底嫌いだった。
度重なる授業妨害。時と場所を弁えず突然騒ぎだすその神経。普通じゃない。
僕が抱くバグ男への嫌悪感の中心には、そんな恐怖にも似た感情があった。
静まり返った教室にバグ男の哄笑が響きわたっていた。何がおかしいのか、他の教室まで轟くほどの大声でバグ男は笑っていた。笑いながら、バグ男は身体を奇妙にくねらせて踊っていた。
ヒステリックな笑い声。意味不明の踊り。
その狂態は、まるでバグったゲームキャラだった。3Dのアバターが、バグったプログラムによりあり得ない動きを見せる、そんな奇怪な動き。彼が「バグ男」と呼ばれる所以だ。そして、その名が定着する位、彼の奇行は繰り返されていたのだった。
もう耐えられない。
こんな事で僕の学校生活が台無しにされるなんて。
クラスのみんなも、僕と同じ気持ちに違いなかった。
ただ、バグ男のあまりの奇行ぶりに、誰もまともにバグ男に注意する勇気を持たなかったのだ。
だが、僕はもう耐えられなかった。
僕は放課後、バグ男を屋上に呼び出した。
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