第二章 座敷童子

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第二章 座敷童子

 それから数ヶ月。村田の新生活は極めて順調だった。  新しい職場でも仕事に追われる忙しい毎日なのは同じだ。しかし、仕事は正当に評価されるし、違法な残業が常態化している訳でも無い。村田にとってはそれで十分だった。憔悴しきっていた顔にも生気が戻り、不安に満ちていた頃が嘘のように日々を謳歌していた。  その間、例の童女は度々姿を見せた。  いつの間にか部屋に現れては、部屋の隅から村田の様子を窺い、目が合うと慌てて消える。その繰り返しだった。 「それ、座敷童子じゃないっすか?」  昼食の為に訪れたラーメン店で、たわいない世間話として語った心霊体験に食いついたのは村田の上司にあたる厚木(あつぎ)だった。 「座敷童子って、家に棲み付くと幸運に恵まれるとかいう妖怪ですか?」 「まぁ、地域とか世代によって細かい部分は違うみたいっすけど、概ねそういう奴っす。些細な悪戯をされることはあっても、基本は幸運を招いてくれる良い妖怪っすよ」  ラーメンを啜りながら厚木は饒舌に語る。如何にも若者然とした、二十代前半の厚木の口から、妖怪などという言葉が出てきたことに村田は驚いていた。 「自分、妖怪とか怪談とか結構好きで詳しいんすよ」  そんな村田の驚きを察したのか、村田は誇らしげに胸を張った。
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