一人暮らし

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 うちには今、野良猫がいます。  オンボロアパートの一階にある私のうちは、窓を開けるとすぐそこに公道があり、窓の施錠を怠っていたら誰でも侵入できるような作りになっております。誰でも侵入できるといっても、こんなオンボロアパートには泥棒なんぞのお目当てになるような高価なものなどあるはずがなく、リスクを冒してまで金品を探しに入るようなアパートではありませんので、心配には及びません。あと、外出中に鍵を落としてしまったとしても、とりあえず窓から入れますのでその点も心配には及びません。私自身、何度か経験済みです。  そんな愛すべきオンボロアパートに、野良猫たちは窓が開いていれば平気で出入りします。中には窓が開いていなくても前脚をうまく使って侵入する者もおります。  というわけで、うちには今黒い野良猫が一匹いるのですが、この黒猫はいつも焼き魚の残骸を咥えてきます。そんなものいらないのにいつも咥えてやってきてはテーブルの上に置いて帰ります。だから別の野良猫が訪問したときに食べさせていたのですが、どうやらこれは私へのお土産らしいのです。  前にこんなことがありました。  黒猫がいつものように窓から入り、咥えてきた焼き魚をテーブルの上に置いたのですが、先客の野良猫がそれを食べてしまったんです。すると黒猫は怒って野良猫に噛みつき、猫同士の大喧嘩が始まりました。気がついたら部屋の中は激しい夫婦喧嘩の後みたいな散らかり様。  それ以来私は黒猫のお土産を、食べたふりをして手に隠し持ち、後でこっそり捨てることにしました。  今日は食べたふりをする元気が私には無く、テーブルの上に置きっぱなしになっています。黒猫の「うまいもんを持ってきてやったんだ。ありがたく思え」という自慢げな顔を見られないのはとても残念ではありますが仕方ありません。  最近私はほぼ寝たきりの状態で、体力が限界に来ております。  身寄りのない私に、野良猫一匹でも看取ってくれるものがいるのはとても幸せなことです。黒猫には感謝しかありません。その黒猫は今私の涙をペロペロと舐めて拭いてくれています。嬉しいやらくすぐったいやらで笑ってしまいます。人生の最後の最後に笑っていられるのも幸せなことです。  私の人生は、宇宙から見たらちっぽけなものですし、他人から見たら何の価値もない一生かもしれません。でも、どんな大金持ちよりもどんな権力者よりも、笑顔で一生を終えることができそうです。  どうやらお迎えが来たようですので、これにて失礼いたします。
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