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「中、変わってなくて懐かしかったね。今日は若先生の方だったけど、ほら、私たちがお世話になった先生も、まだ現役で院長してらっしゃるんだって!」
って葵咲ちゃん。何故そんなに嬉しそうなの?
僕は「インフルエンザ」と言われた時点でキミに感染してしまいそうで気が気じゃないというのに。
まさかあの若先生とやらが美形だったから嬉しかったり?
キミが病気になったら、僕は絶対女医さんがやってる内科を探して連れて行くから!
ハンドルを握る葵咲ちゃんの横顔を見つめながら、僕はほぅ、っとひとつ溜め息をついた。
もちろんマスクはしてるし、窓は全開にしてあるけれど心配で堪らないと言ったら葵咲ちゃんはきっと笑うんだろうな。
それで、今からでも遅くないから実家に帰ってって言ったらめちゃくちゃ怒るんだ。
***
大学に提出するために書いてもらった診断書に明記された「インフルエンザA」の文字が心に重くのし掛かる。
ちなみにそこに書かれた情報によると、あの医者の名前は鳥飼奏芽というらしい。
下の名前、何て読むんだろ? かなめ?
鳥飼ってことは……院長の息子かな? 金髪OKの理由は、ただ単に同族だから?
ふとそんな底意地の悪いことを思ったけど、実際のところ診察自体とても丁寧で迅速だったし、初見での診断も間違っていなかった。――言葉遣いはともかくとして!
ムカつくけど、あの医者の諸々が受け入れられているのは、同族だけが理由じゃない。きっと患者さん達からの支持があるからだ。
僕だって子供じゃない。社会がそんなに甘くないことくらい、ちゃんと分かってる。
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