扉越し

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 帰宅してから、僕は力尽きたようにベッドに倒れ込んだ。 「ごめ……。ちょっとだけ、寝かせ、て」  葵咲(きさき)ちゃんにやっとの思いでそう告げたら、ものすごく心配させてしまった。 「薬、局で……すぐ薬、使っ、てるから、大丈、夫だよ」  言って、微笑んだ……つもりだけどちゃんと笑えていたかは謎だ。  そういえばインフルエンザなんて生まれて初めて(かか)ったから知らなかったけど、飲み薬だけじゃなくて吸入薬タイプの抗インフルエンザ薬もあるんだね。  薬局で、インフルということで車内待機をしていた僕らのところまでわざわざ薬を持ってきてくれた薬剤師さんが、吸入薬初心者の僕に分かりやすく使い方を教えてくれた。  まぁあのくらいなら自分でもできそうだし、説明書も付いてたからきっと問題ない。  葵咲ちゃんは存外心配性で、帰るなりグッタリとしてしまった僕のそばをなかなか離れようとしてくれなくて。  僕はそれが気になって仕方ないんだ。 「葵咲(きさき)、お願……ぃ、寝室(ここ)から……出て? リビング(部屋)の換、気も、ちゃんとして……手洗いと、うがい、忘れ、ないでして……そ、れから」  どうしてもあれこれちゃんと伝えなくちゃと思って、寝そべったまま僕のすぐそばにいる彼女を見上げながら言って……。  えっと……他に言い忘れたこと、ないだろうか。
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