扉越し

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「でも、理人(りひと)、今すごく熱高いし……」  見ていない間に僕に何かあったら困るからそばにいたいの、とかとんでもないことを言って不安げに眉根を寄せる葵咲(きさき)ちゃんに、「熱、は寝てれば、平気(へーき)だ、し……。抗ウイルス薬、で、異常行、動取るのも、子供だ、って話だ、ろ? 僕は、一応大人だか、ら大丈夫、だよ?」って言ってみたけれど、「でも」って譲ろうとしなくて。 「き、さきちゃ……、いい加、減にしな、いと……ご実、家に電話して……無、理矢理にでも、おば、さんに迎、えに来、てもらう、よ?」  声を低めてそう言ったら、僕の大好きなアーモンドアイを目一杯見開いて、「ダメ!」って慌てたように言ってから、渋々だけど寝室を出てくれた。 「あの、理人(りひと)……時々様子を見に覗くのは……」  それでも扉を閉める直前、往生際悪くそう言ってくる葵咲ちゃんに、「葵咲」と目一杯頑張って低めの声を返してから、「あ、でも……」と枕元の携帯を手に取る。 「ど、しても寂し、くなっ、たら携帯(これ)、鳴らして? 僕も……君のこ、え聞け、たら嬉、しい、し」  気づかないで寝こけている、という事態だけは避けたくて、葵咲ちゃんがホッとしたようにうなずいて扉を閉めたのを見計らってから、僕は手にしたスマホのバイブをオンにして、着信音量を最大に設定し直した。  そうしてそのまま、宮棚に戻すことも出来ずにそれを手にしたまま眠りに落ちた。
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