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「ちょっと待ってね」
葵咲ちゃんを横抱きに抱き上げてから、寝室の扉を開ける。
ずっと入っていなかった――葵咲ちゃんが1人で寝起きしていた――寝室はクラクラするぐらい葵咲ちゃんの甘美な香りで満ちていて……僕は思わず足を止める。
「……理人?」
でも一番いい匂いがしているのは僕が今腕に抱き締めている葵咲ちゃん自身に他ならなくて。
「あ、ごめん。寝室の中、あんまりにもいい匂いで一杯だったからつい」
素直に本音をこぼしたら「にお……い?」と聞かれて。「あ、葵咲ちゃんの…」って答えたら「バカ……」と力ない抗議の声。
ホント、こんなときにごめん。
僕って男は少し元気になるとすぐこれだ。
「ちょっと寝そべって待っててくれる? キミを病院に連れて行く準備をするからね」
言って、彼女をベッドに横たえると、布団を掛けて頭を撫でる。
ごめんね。しんどいよね。関節が痛いはずだし、寒気だって酷いはずだ。
「あ……。待って、りひ、と。……病、院」
僕の言葉に身じろいで「私の……鞄……」と途切れ途切れに言う葵咲ちゃんに、僕は本当に申し訳なくてたまらない気持ちになる。
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