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「あ……」
診断書の医師名のところ。
鳥飼奏芽ではなく、鳥飼壮一になっていた。
この名前、見覚えがある。
「診てくれたの、院長先生?」
聞いたらホッとしたように葵咲ちゃんがうなずくんだ。
僕は本当、まだまだだね。
それにしても、だ――。インフルエンザA型だなんて!
やっぱり怒鳴りつけてでも実家に帰らせるべきだったんだ。
しかもこの感じだと葵咲ちゃん、家で寝てる僕を気遣って自力で通院して帰ってきたってことだよね?
――何で僕を頼ってくれないんだよ!
そう思って、自分が寝込んでいたとき、散々葵咲ちゃんから同じセリフを言われたことを思い出して苦笑する。
葵咲ちゃんはこう言う気持ちだったのか。
***
「――理人……」
と、診断書を握りしめたまま物思いにふけっていた僕に、葵咲ちゃんのか細い声がかかる。
「どうしたの?」
黙り込んでいたら葵咲ちゃんが気にしちゃう。
僕は気持ちを切り替えて顔を上げると、何でもないみたいに小首を傾げて見せた。
「あなたは……うつし、てしまったって……気にす、る……だろう、けど」
葵咲ちゃんの言葉に僕は図星を突かれて言葉に詰まる。
「……でもね、わ、たしは……うつって良、かったと……思っ、てたり……す、るの」
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