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葵咲ちゃんは、実際そういうところがある子だから……。
彼女の「イヤ」という言葉も、「いいよ」っていう言葉も、臨機応変に見極めてあげないといけない。
そのままの意味で取ったら、彼女は僕のためにしなくてもいい無理をしちゃうんだ。
痛くても決して痛いって言わないところがあるし、今みたいに絶対辛くて無理だろって時にでさえそういう馬鹿なことを言って、僕を悦ばせようとする。
僕はずるい男だから、それが分かっていてあえて気付かないふりで、彼女の強情さに甘えることもないとは言わない。
けど、少なくとも今はそれをしていいときじゃない。
***
このまま葵咲ちゃんにくっ付いていたら、「しない」という決意が揺らぎそうで。
彼女の上から欲望ごと引き剥がすように無言で身体を起こしたら、思わず、と言った感じで伸ばされた葵咲ちゃんの手が、僕を引きとめようとしてきて。僕のスウェットの裾をぎゅっと掴んで潤んだ瞳で不安そうにこちらを見つめてくるんだ。
あー、もう、なんて可愛いんだ!
「大丈夫。僕はもう、葵咲の側から離れたりしないよ? ただ、一緒に布団に入る前に、キミの着替えを持って来なきゃいけないだろ? ――その間くらい、ひとりで大人しく待っていられるね?」
わざと幼な子をあやすように言えば、葵咲ちゃんが小さくうなずいて、僕の服から恐る恐る手を離してくれる。
僕らの年の差は5つ。いつもは背伸びして僕に接する葵咲ちゃんに合わせて、対等……もしくは彼女の下僕くらいの気持ちで接するように心掛けている僕だけれど、こんな時くらいお兄さんぶったって許してくれるよね?
「いい子」
潤んだ目で僕を見上げてくる愛しい葵咲ちゃんの頭を軽く撫でて前髪をかき分けると、いつもよりかなり熱いおでこにキスを落として、僕は寝室に隣接したウォークインクローゼットの扉を開けた。
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